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金塊泥棒を予言した

 もう何年も前に友人ととある博物館に行ったんです。何しろ博物館を名乗ってる施設ですから、いろんな歴史的物体が展示してありました。

 中でも一際目を引いたのが金塊です。大きめのティッシュ箱くらいありまして、来館者は普通に触れるようになっていました。ただし、当然ながら金塊は持っていけないよう、台にガッチリと固定してありました。防犯カメラもひとつやふたつじゃありません。

 そりゃそうかと思いながらとりあえず金塊を触ると、なんかデコボコするんです。寄って見て分かりました。金塊の表面にはおびただしい数の爪痕が残ってるんです。爪の間に金をつめて帰ろうとした者たちの夢の跡とでも言うんでしょうか。金の性質上、無理だと分かっていても、幾多もの人がチャレンジし、そして敗れ去っていったようです。

 不穏な傷跡を眺める私に、友人はもっと不穏なことを言い出しました。

「この金塊、絶対にいつか盗まれるな」

 「いやいや、さすがに無理じゃね。こんだけ厳重だし」と私が言っても友人は主張を曲げる気配がありません。

「こういうのは内部の犯行と相場が決まってるんだよ」

 いつもの悪い冗談だと言うことにしてその場は終わったんですが、それからしばらくして、その博物館から本当に金塊が盗まれる騒ぎが起きました。しかも、犯人は博物館の職員で、金塊の貸出票にしっかり名前を記入したのに、返却した記録がなかったため、あっさりバレて逮捕となったようです。

 私は友人に「お前がそそのかしたのか?」と言ったら友人は「状況から判断したまで」と涼しい顔です。そんな私たちは懲りずに別の博物館に行きました。そこは剥製が大量にあり、その光景はなかなかに圧巻です。しかし、友人はまたいらんことを考えてました。

「あの角とか象牙とかを別のとすり替えられるな」

 意味が分からなかったので詳しく聞きますと、どうも剥製の中でも角や象牙に価値を見出していたようでした。角は漢方薬になりますし、象牙なんて今でも密猟者が目を血走らせて追い求めるようなものです。剥製だって当然、狙われるはず。ただ、切り取っただけではすぐバレるので、代わりのもので誤魔化して発見を遅らせる。ちゃんとした犯罪者ならばそれくらいするだろうというのが友人の見立てでした。

「偽の角とかどうやって作るんだよ」
「今なら3Dプリンターで一発だよ」

 新しい技術は新しい犯罪を生む。私は新しい犯罪の誕生を目の当たりにした気分でした。ただし、友人はアイデアを思いつくだけで実践はしません。前科なしの一般市民です。ただ、こういうことをなぜか私に報告し、その報告の何パーセントかは現実になる。

 そして、この文章を書き終わった次の日、某動物園でサイの角が盗まれたとの報道が。3Dプリンターを使わなかったようなので友人とは無関係のようですが、じゃなくて、金塊も無関係ですよ、もちろん。

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