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題名読書感想文:33 漢字コンボのルール作りは大変なんです

 本を全部読んで感想を書く「読書感想文」という重労働から逃れ、本の題名だけで感想を書く軽労働をしています。そんな軽労働が「題名読書感想文」です。

 今回のテーマは「寿限無」です。寿限無とはご存じ、子供に長い名前をつけてしまったばかりに、面倒なことが多発するお話でございます。

 このような長い言葉を長大語と言うようで、探せば意外と身近なところにあったりします。

 しかし、長大語は名前の長さ自体に価値を求めてしまう場合が多く、文字数を伸ばすためだけに言葉を繋ぎ合わせた跡が見える場合も少なからずございます。それがいいか悪いかは状況によるでしょうけれども、少なくともここではなるべく自然に長くなった題名を集めたいと考えました。

 というわけで、今回は漢字が割と続いている、長い題名を集めてみました。なぜ漢字なのか。それは日本語における漢字の特性に理由があります。

 日本語において、漢字ばかり続けて表記する文章はよくないとされる傾向にあります。読みづらくなるからですね。般若心経みたいなお経を想像していただけるとお分かりになるかと存じます。そして、文章を書く人は、基本的には読みづらい文章を書きたくないと考えると思うんです。

 長大語を作る人だってそうなのではないかと考えたんです。ただでさえ長いだけでも読むのが面倒なのに、更に読む気が失せるような形にはしたくないでしょう。だから、名前を長くする手法として、漢字を連続で使うことはまずないのではないかと考えたわけです。言い換えれば、漢字の連続で長くなった名前は、結果的に長くなってしまった可能性が高い。

 それに、日本語は漢字ばかり繋げてそれなりに意味のある文章を繋げるのが難しい構造になっており、気軽に長大語を作りづらい側面があります。この特性もまた、「結果的に長くなってしまった」題名になりやすいと考えたわけです。

 では、漢字がいくつも自然に続く題名とは何でしょうか。例えば、「東京国際空港 国際線旅客ターミナル」です。

 題名は16文字。漢字は11文字続いています。すなわち、11コンボです。

 11コンボと聞くと、思ったより少ないと思う方がいらっしゃるかもしれません。題名も普通に読みやすいですし。ただ、読みやすいのは「空港」と「国際」の間に半角スペースが入っているからでございまして、スペースを取っ払って「東京国際空港国際線旅客ターミナル」としますと、なかなかに読みづらいです。「国際」がふたつ入ってて、何かの誤植かと思われかねない。

 もちろん、全部漢字の題名もございます。「大英自然史博物館 珍鳥標本盗難事件」がそれです。

 副題はともかく、メインの題名は16文字で、全て漢字です。つまりフルコンボです。この題名もスペースを取ってしまうと「大英自然史博物館珍鳥標本盗難事件」と漢詩のような題名になってしまいます。実際の表紙は題名を4文字ずつ改行して読みやすくしてありますが、この形がマジで漢詩みたいです。

 ただ、大英自然史博物館は実在する施設の名前でございますし、「珍鳥標本盗難事件」も内容を過不足なく説明している、意味のある言葉であると同時に、ギリギリ読める言葉でもあります。これは計算された題名だと推測されます。

 全ての本を確認したわけではございませんので、あくまで推測ですけれども、一般書で漢字が続く題名の本は「大英自然史博物館 珍鳥標本盗難事件」がほぼ最長なのではないかと思います。読みづらい題名の本なんて、それだけで買う気がなくなってしまう危険性もございますし、売る側だって名前が長いといろいろ面倒でしょう。「大英自然史博物館珍鳥標本盗難事件をお探しのお客様」とか「大英自然史博物館珍鳥標本盗難事件を1冊ご注文ですね」とか言わなくてはいけなくなる。リアル寿限無現象が起きてしまうわけです。

 それよりも長い題名となると、一般書よりも商売っ気が薄いジャンルになってきます。いわゆる専門書というやつですね。特に法令とか統計とか、公的な側面が強いものは、売りやすい題名かどうかよりも、いかに内容を正確に、誤解のないように伝えることを重視しているのか、漢字が数珠つなぎになりやすい傾向にあります。

 ただし、公的な側面が強い専門書となりますと、今度は別の問題が出てきます。コンボのルールをどうすべきか迷ってくるんです。

 具体例を出しましょう。「国立文教施設工事契約事務必携 第三次改訂版」なんかがそれです。

 題名は全部で20文字。一見するとフルコンボになっています。しかし、これは「第三次改訂版」込みなんです。「第三次改訂版」とは文字通り、「内容を3回大きく変えた本ですよ」ということであり、初版ならば当然この「第三次改訂版」は存在しません。そうなると、14文字フルコンボとなりまして、先ほどの「大英自然史博物館珍鳥標本盗難事件」よりも短くなってしまいます。

 こんなパターンもあります。「小規模建築物・設計施工一括用工事請負等契約約款及びリフォーム工事請負契約約款の解説」です。

 アマゾンではなぜか副題の「民間(旧四会)連合協定」を載せる代わりに「工事請負等」より後の言葉が略されていますけれども、「小規模」から「解説」までをメインの題名としますと40文字になります。

 ここで難しいのは「なかぐろ」をどう扱うかなんです。漢字ではないのは間違いありませんが、問題は「・」でコンボを途切れさせるかどうかです。途切れさせる場合は17コンボ、途切れさせない場合は「・」を除いて23コンボとなります。「・」の扱いでコンボ数が大きく異なってくるんです。

 こういうものもございます。「設計業務等標準積算基準書 設計業務等標準積算基準書(参考資料)」です。

 「令和5年度版」は題名から抜かしていいでしょう。問題はそこからです。

 まずカッコでくくられた「参考資料」をコンボに含むのか含まないのか、つまりカッコでコンボを途切れさせるのか途切れさせないのかという問題がございます。続いて、「設計業務等標準積算基準書(参考資料)」を題名に含むのか、それとも題名に含まず、副題と見なすのか。これも判断に困るところです。

 全てを題名に含み、なおかつカッコでコンボを途切れさせない場合は28コンボのフルコンボとなり、これが最大値です。ただし、カッコはコンボ数に含めません。続いてカッコでコンボを途切れさせた場合が24コンボ、「設計業務等標準積算基準書」だけを題名とした場合が最小で12コンボと、こちらもルールによってコンボ数に大きな差が生じてしまいます。

 極めつけがこれです。「経済構造実態調査報告書二次集計結果(乙調査編) 各種物品賃貸業、産業用機械器具賃貸業、事務用機械器具賃貸業編」です。

 長いだけに判断が強いられる部分も多めです。まず、どこまでが題名で、どこまでが副題かという問題。それから、「読点」やカッコでコンボを途切れさせるかどうかです。

 全てを題名とし、カッコも読点もコンボを途切れさせない場合は49コンボのフルコンボで最大。ただし、カッコや読点はコンボ数から外しています。続いて、読点だけコンボを途切れさせる場合は28コンボ、カッコだけコンボを途切れさせる場合も28コンボ、読点もカッコもコンボを途切れさせる場合は最小の17コンボとなります。ちなみに、コンボ最小の場合は「経済構造実態調査報告書二次集計結果」のみが題名と認定され、結果的に副題っぽいところが全て除外される形となります。

 ここまで書いて思いましたのは、なんか自分で勝手に作ったルールで自分が困惑しているなあということです。ちなみに、この「経済構造実態調査報告書二次集計結果(乙調査編)」は、様々な業界ごとに作られておりまして、中でも最も文字数が多いのは「経済構造実態調査報告書二次集計結果(乙調査編) 映像情報制作・配給業、 音声情報制作業、映像・音声・文字情報制作に附帯するサービス業編」となっています。「・」と読点とカッコを除いても圧巻の58文字です。一方のコンボ数は、ひらがなやカタカナが混ざっていることが影響してか、47コンボに留まっています。

 題名だけで感想を書くという軽労働に従事していたはずが、ルール策定という重労働に巻き込まれてしまいました。

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