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全自動マシンで風呂に入りたい

 同じ立場のほうが気持ちは理解しやすいですよね。先生は先生の気持ちを、漁師は漁師の気持ちを、王様は王様の気持ちを理解しやすいのは当たり前と言えば当たり前です。同時に、先生も漁師も王様も個人差があります。同じ立場だからと言ってみんながみんな同じ動きをするとは限らない。

 たとえば、同じつらい立場にいたとしても、そのつらさを世間に訴え、問題解決に向けて社会へ働きかける人もいれば、別に同情されたくないし、何なら放っておいてほしい人だっているでしょう。どちらがいいとか悪いとかではなく、それぞれの資質の違いに過ぎません。

 こんな小難しいことを冒頭で書いたのには訳があるんです。年齢を重ねたこともあってだいぶ身体が不自由になってしまった人生の先輩方が入る施設に関して、とある話を聞いたんです。

 いくら身体が不自由とは言え、お風呂に入れるなら入ったほうがいい。身体が清潔に保てるし、何より気持ちいい。適温の入浴は心身にとってプラスに働く点が多いです。私は介護に全く詳しくないのですが、人の介助によって入浴する場合もあれば、何らかの器具を用いる場合もあるようです。中には機械に人を乗せ、ウイーンと動かして湯船につからせるなんてこともあるとか。

 その機械を使った入浴に対してのクレームが私には印象深かったんです。内容を一言でまとめると「もの扱いされているようで嫌だ」とのこと。

 マニュアル通りの接客は「人間味がなく機械的だ」というクレームのもとになる時がありますけれども、今回の入浴話は人間が動かしているとはいえ本当に機械がやっているわけですから、まあ嫌だと思う人は出てきてしまうのだと思うんです。それはその方の考えであり、仕方のない部分だと思います。

 ただ、私はきっと違う反応をすると思うんです。「すげえぞこの機械」くらいの感動は簡単にする。何だったら無駄に風呂から出し入れして機械の振動を身体に響かせたいくらいです。可能であれば今からでも乗りに行きたいです。飛び入りでマシン入浴をお願いすると、やっぱり料金がかかるんでしょうか。そこは要相談なのかもしれません。

 しかし、思うんです。自分のような考えは少数派なのではないかと。そう言えば私が小学生をしていた頃、社会科見学で近所のパン工場へ行ったことがあります。そして、パンを次々と運ぶベルトコンベアを見て思ったんです。「乗りたい」と。日記に書いて先生に提出したら、後日、赤文字で心底戸惑ったようなコメントが書かれて返ってきました。正直言って、安全性が保たれるとか、工場に迷惑がかからないとか、そういう諸々の事情が許せば今でも乗りたいと思ってます。でも、先生の戸惑いコメントを見た当時の私ですら、「ああ、こういうことを日記に書くやつは随分と特殊なんだな」と思いました。いや、でも乗りたい。そんなねじれた欲望を満たすため、動く歩道ではいつも立ち止まって振動を楽しみます。本当は逆走したいくらいですが、そこは我慢しています。

 きっと機械で全自動に入浴させるのが嫌な人が大半なのでしょう。私がいろいろと不自由になる頃には、そんな自動入浴マシンは廃れてしまっているに違いない。もっと人の暖かみのある手法に切り替わっているでしょう。

 いや、介護業界だって時が経てばもっと成熟してくるはずです。もっと一人ひとりの好みに合わせた介護が可能になっているでしょう。そうなれば、私のようにマシンでバリバリ介護された方がテンションが上がる少数派のために、ベッドから風呂までベルトコンベアでダラダラ運んでくれるサービスができているかもしれない。

 こんなんで将来に希望を抱いていいのかどうか分かりませんが、とりあえず抱ける希望は抱いておきます。

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