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ボケ不要なクイズ番組でボケ倒した太田光さんという男

 はたから見ている限り、クイズ番組とお笑い芸人の関係性は微妙なようです。理由は明白で、ボケと相性が悪いからです。

 お笑い芸人と言えば、基本的にはどんな場所でも笑いと取ろうと様々なことをやっていきます。笑いのためなら変な言動をする、すなわちボケることも厭わないわけです。しかし、クイズでボケるとなれば、正解から離れまくった解答をする場合がほとんどです。ほぼ全てと言ってもいい。そんなことをしていればクイズ番組はしばしば成り立たなくなってしまいます。

 お笑い芸人のやりたい行為が、番組の成功と真逆である。この点がお笑い芸人を時に苦しめているようです。アンガールズの田中さんもまたそのひとりのようで、以下の動画で「正答することが正義のようなクイズ番組は苦手」とおっしゃっています。

 田中さんは広島大学工学部を卒業しており、お笑い芸人の中はもちろん、一般的に見ても立派な学歴を持っています。知識量も相当あると推測されます。ただ、ロザン宇治原さんやカズレーザーさんを始めとするクイズが得意な方々を見ていると、知識があるだけではクイズ番組で活躍するのは不十分であり、クイズ番組の傾向を調べて対策を練り、クイズに特化したテクニックを体得しなければ勝率が上がらないように感じられます。田中さんとしては何らかの理由でクイズ番組の対策ができず、クイズ解答者としてもお笑い芸人としても活躍できない、八方塞がりな状態となっていたようです。

 もちろん、全てのクイズ番組がそうではありません。上記の動画で田中さんが言及していたように、解答者のおかしな答えを笑ってもらうタイプのクイズ番組もございまして、そちらのほうはお笑い芸人のボケとの相性も比較的よさげです。一方、正解数でキッチリ勝敗をつける競技性の高いものや、高難易度の問題に挑むガチ勢向けの番組ですと、例え分からない問題だけを大喜利したとしても、Aマッソ加納さんのように番組の出演も叶わなくなってしまう。

 これは何が悪いというよりは、相性の問題だと思います。ちゃんと正解を狙う解答者が欲しい番組制作者としては、ボケたがりのお笑い芸人が来られても良さを引き出せない。無理に出てもらったところで、ボケ倒す姿を視聴者が納得してくれないかもしれない。ボケたがるという特徴は他の番組で活かして欲しいと番組側が考えても、それは当然の話でしょう。

 だからこそ、クイズ番組で忘れられない光景があるんです。そのクイズ番組は「日立 世界・ふしぎ発見!」、1986年から放送されており、毎週のように世界各地の歴史や文化から出題されるという、教養系クイズ番組です。司会は長らく草野仁さんが担当されていました。元NHKエースアナウンサーということもあって、安定感が半端ない司会は「教養クイズ番組」という地位を確固たるものにした要因だと勝手に考えています。早い話が、ちゃんとした解答を欲するタイプのクイズ番組なわけです。

 だいぶ前の話ですが、「ふしぎ発見!」に爆笑問題の太田光さんが出た回があったんです。当時は5人程度の解答者がそろって同じ問題を4問ほど記述式で答えるシステムだったと記憶しています。しかし、ゲスト解答者として席に座っているのは太田さんなんです。太田さんをご存じの方は、彼の暴れっぷりと申しますか、やらかしっぷりと申しますか、そういうのをあれこれ見聞きされていると思います。そして、私が「ふしぎ発見!」で太田さんを拝見した時、彼は既にそんな感じの芸人でした。

 しかし、それでも全問ボケ解答をするとは思いませんでした。明らかに当てる気ゼロの解答が続き、最終的には草野仁さんの似顔絵を描いていたと記憶しています。ウケていたのでお笑い芸人としては正解です。でも、当時、既に歴史ある教養クイズ番組だった「ふしぎ発見!」でぶつけてくるんです。レギュラー解答者には毎回パーフェクトを狙うガチ勢こと黒柳徹子さんがいらっしゃいますし、何より司会は草野仁さんです。草野さんは太田さんの解答に笑いながらも、安定した司会っぷりは変わらず、クイズを進行していました。

 今でもこの回をたまに思い出しては考えるんです。太田さんをクイズ番組へ呼ぶ時点で、全問ボケ倒すことは分かっていたはずなんです。では、どうして呼ばれたのか。大人になればなるほど、ここのところが分からなくなっていくんです。

 確かに、レギュラー解答者には、お笑い方面を担当する野々村真さんがいらっしゃいます。ただ、野々村さんのスタンスは「ちゃんと正解を狙って大体間違える」であり、太田さんのように当てる気ゼロでボケ倒すストロングスタイルではない。そもそも、他のゲスト解答者はちゃんとクイズに真正面から取り込む方ばかりであることから考えても、ボケる解答者を求めていない番組なはずです。だから、なぜ太田さんが呼ばれたのか謎なんです。

 結局、考えた末に落ち着く答えは「そういやあ、事務所の社長が有能だった」というところです。太田さんの妻でもある太田光代さんですね。彼女が様々な偉い人を説き伏せ、太田さんを「ふしぎ発見!」でボケ倒させるという、よく分からない奇跡を巻き起こした可能性は充分に考えられます。

 ボケがノーサンキューなクイズ番組でボケ倒して特に何事もなく終わる。そんなことをやってのけられるくらいだから、太田さんがいくらテレビ番組で暴走して炎上しようと「まあ、どうにかなるだろうな」と考える癖がついてしまいました。そして、今のところ実際にどうにかなっているわけです。

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