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アンがなかなか出てきてくれない

 友人から何冊か本をもらいました。その中に「赤毛のアン」シリーズが混じっていたんです。

 赤毛のアンはご存じ、L・M・モンゴメリの人気シリーズで、カナダのプリンス・エドワード島を舞台にしたお話です。子供のころから何となく名前を聞いては来ましたが、初めてまともに読んだのは中学の英語の教科書でした。

 いや、まともに読んだなんておこがましい話でした。何しろ、中学生時代の私は人生で最も遊びほうけていた時期であり、やることと言えばゲームをするか漫画を読むか友達と何か頭の悪いことをするか、大体この3つだったんです。英語の授業でカナダの名作が出てこようが、まともに読むわけがありません。

 アンを扱った英語の授業で覚えているのは、赤毛のアンの原題「Green Gables」を友達と適当にいじった場面だけです。Green Gablesはグリーン・ゲーブルズとでも書くのでしょうか。中学の教科書でしたので「緑の屋根」という和訳でしたが、Gableは「切妻屋根」、つまり屋根と言われてまず思い浮かぶ三角形のあれを意味しています。

 私と友達は当時、その程度の学習すら拒否していました。その代わりにしていたことと言えば、「Gableは現地の人の発音だと『ゲーボー』と言ってる風に聞こえる」「なんだよ、緑のゲボって」という、知能のかけらもないいじりでした。

 それから相当の時間が経ち、知識の拾い食いをして多少はマシな脳みそになったと思い込んでいる私のところに、マジのアン本がやってきました。せっかくもらったんだし、読んでみよう。というわけで、通勤時間にちょっとずつ読み進めていたのですが。

 赤毛のアンというからには、主人公は赤毛のアンなわけです。しかし、アンは冒頭でちょろっと出ただけで、あとは全然知らない人ばかり出てくる。せいぜい登場人物の誰かがチラッとアンの噂をするだけです。まだ出ない、そろそろ出るだろ。そう思っている間に読み終わってしまいました。

 何だこれは、と思ったのですが、何しろ赤毛のアンはシリーズになっています。モンゴメリだって長い作家生活の中で、たまにはこんな変化球を投げてくるでしょう。個人的には初球からナックルボールを投げられた気分なんですが、別のアン・シリーズならば、もうアンはお腹いっぱいと思えるくらい出てくるに違いない。

 やっぱり出てこないんです。こっちはアンの名前すらほとんど出てこない。知らない人と知らない人が知らないドラマを繰り広げている。いや、面白いし、気持ちを揺さぶられる場面はちょくちょくあるんです。でも、タイトルにアンの名前があるのに、読めば読むほどアンじゃない人が出てくる。モンゴメリが活躍した20世紀前半は、こんな綺麗な羊頭狗肉がまかり通っていたんでしょうか。

 ネットで調べて初めて知りました。赤毛のアンに詳しい人にとってはベタ中のベタなんでしょう。私が読んだ2冊は「アンの友達」と「アンをめぐる人々」という、主人公であるアンがほとんど出てこない短編集だったんです。私は数あるアン・シリーズの中からその変わり種2冊をピンポイントでピックアップしてしまった。

 当然、思いましたよ。中学の時に緑のゲボとか言っていじったから、アンとモンゴメリがタッグを組んで反撃に転じたと。分かった分かった、ごめんて、ごめん。

 と、ふたりに平謝りしたところで、もっと昔の記憶が蘇ったんです。私が小学生をしていたころ、ホームズの本を図書室で何冊か借りたんです。でも、字がいっぱいで全部読める気がしませんでした。じゃあ、タイトルを見てよさげなものを選んでみようと思い、「ボヘミアの醜聞」「オレンジの種5つ」「黄色い顔」の順で読みました。

 ホームズ好きの皆さんならご存じの通り、これは3つともホームズが失敗したお話とされています。作者のコナン・ドイルからしてみたら「ちょっと待てやこら」という順番でしょう。調べたらもう1話、ホームズがミスったエピソードがあるみたいですね。その時は3話だけ読んで図書館に返してしまったんですが、当時の私にもうちょっとやる気があったら、ホームズの恥をコンプリートしていたでしょう。

 別に狙ってるわけじゃないんですが、なんかそういうことをやらかすんです。誰か助けてください。

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