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なぜかそれだけ覚えられない

 人の名前を覚えるのは苦ではありませんし、何なら得意だと自負していたんです。職場でも、別部署の話したことない人の顔と名前まで完璧に記憶していたんです。

 しかし、私の記憶機能に思わぬ穴があったんです。きっかけは珍しく人の名前を言い間違えたからです。普通に失礼な話なんですが、相手は気にしていない様子でした。「そんなこともあるよ」と。

 以来、その言い間違えた相手を筆頭に、名前を言い間違えそうになることがグッと増えました。最初はスランプだと思ってました。そんなもんにもスランプがあんのかよ、って感じなんですが、当時は真剣に思ってました。

 スランプであれば当然そこから脱したい。そのためには現状の分析が必要です。というわけで調べてみました。暇人みたいな行動力ですね。実際そこそこ暇でしたが。

 幸運にもちょっとの調査で法則性を見出しました。私、「横」から始まる2文字の名字が全然見分けられないんです。横田さんとか横山さんとか横澤さんとか、そういう名字の人が現れると「ああ、あの人は横……なんだっけ」となるんです。

 原因が分かったんだから次は対処です。とりあえず、いろんな記憶術を本とかネットとかから拝借し、それを横なんとかさんたちの記憶定着に実践していきました。ですが、どの記憶術も効果がないんです。「よし、覚えたぞ」と安心しても、ひと眠りしたら定着したはずの記憶が完全に散逸している。「あの人は横……なんだっけ」に逆戻りです。

 あまりにも記憶が定着しないんで、もっと現実的な方法で対処しました。「なるべく名前を呼ばない」です。呼ぶ場合は名刺とか名札とか他の誰かが名前を読んだとか自分が名乗ったとか、正解が確定している場合にのみ名前を呼ぶことにしました。どうしても相手の名前を呼ばなければいけないときは意外とありませんので、これで何とか対処していました。あとは、対処療法で凌いでいる間に横なんとかさんの記憶を定着させる方法を身につけるだけです。

 と思った矢先、横なんとかさんたちが立て続けに転勤したり退職したりで、あっという間に近場からいなくなってしまいました。以降、横なんとかさんと一緒に仕事をする機会に恵まれておりません。そんなわけで、結局、横なんとかさんの記憶定着の方法が確立できないまま現在に至ります。

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