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ひたすらに借主が変わる、ある不動産の運命

 不動産の運命も予想がつかないものです。これから持ち主が何人変わるかなんて分からない。何ならいきなり共同名義をやり始めるかもしれないし、何だったら名義人が3桁いっちゃうかもしれない。

 その昔、私の実家から少し歩いた場所にホテルがあったんです。ホテルと言ってもラブなホテルですから、外観がかなり派手目でございました。完全に西洋の城を意識した形なんですが、全体的にどこか安っぽく、昔のRPGに出てきそうな、日本人が何となく想像するお城っぽい建物でございました。そんなものが住宅地の中にポツンとあったんです。ホテルと住宅地、どちらが先に出来たのか分かりませんが、随分と変なところにあるホテルだなあと思っていました。

 やっぱり立地に問題があったのでしょうか。気づけばホテルは廃業したようで、RPG風のお城には「貸物件」の看板が掲げられていました。どうやら、どなたかが買い上げて、賃貸で一山当てようと考えたようです。こんな特殊な外観の建物を借りる人は一体どんな方なんだろうと思いながら、私はいつもそばを通っていました。外観が特殊とは言え、そこはやっぱり住宅地の中という立地です。うまいこと商売に繋がるかもしれないと思う方がいつかは現れるんじゃないかと考えておりました。

 実際、1年ちょっと経った頃、新しいお店が入りました。おもちゃ屋です。もちろん、子供を対象としたものです。私はなるほどと思いました。確かに、RPG風のお城は子供心をくすぐる形状かもしれない。中がおもちゃ屋となれば「ママおもちゃ買って」率が高まるでしょう。物件を借りた方の描いた戦略が目に見えるようです。しかし、ご近所の方々はこのお城がもともと何に使われていたか知っているわけで、そのせいかイマイチ客足が伸びなかったのでしょう。気づけばお城の入口には再び「貸物件」の看板が。

 ダメでしたか。他人事ながら残念がる私を知ってか知らずか、次の借り手はすぐに見つかったようです。気づけばバレエ教室に使われていました。バレエと言えばヨーロッパ発祥です。西洋のお城っぽい外観と相性がいいと借主は考えたに違いありません。しかし、やっぱり無理があると言わざるを得ない。だから、結構早くにバレエ教室はRPG城から撤退し、お城には見慣れた「貸物件」の看板が。

 不動産会社のサイトを確認すると内装はちょこちょこリフォームしてあるようなんですが、なぜか外観は相変わらずのRPG城で、何ならあちらこちら塗装がハゲかけています。これで借りる人がいるのか。いたんです。

 看板はアルファベットで書かれているが、スペルが明らかに英語でない。ただ、十字架が描かれていたので分かりました。教会です。いや、何語かも分からなかったんで、本当に教会として使っているのかは定かではございませんけれども、少なくとも在日外国人が宗教的な目的で利用する施設であることは確かなようです。そう思うと、あのいかにもRPGなお城も厳かな感じに見えてくるから不思議です。ハゲた塗装なんて、悠久の時の流れを表すアクセサリーです。歴史の重みを感じさせる小道具です。

 何がダメだったのか。借りた後で「もともとラブなホテルだったらしいよ」との情報を得て考え直したのか。しばらくするとまた「貸物件」の看板が入口にかかってました。以降、借主が現れず、そのままです。

 もちろん、私の興味は次の借主です。それしかありません。

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