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【第29回】ブッカ・ホワイト/パーチマン・ファーム

大学のときに、枠いっぱいにはみ出そうなくらいの自分の顔写真を持っている知人がいた。何でこんな写真持っているのか聞いてみたら、免許証に貼るために写真屋さんで撮影したものらしいのだが、免許センターで「これじゃちょっと。。」と断られたものらしい。写真屋さんでは普通に免許用の写真をお願いしたらしいのだが、その写真屋さん何か勘違いしている気がする。
免許証で使う写真なのだから当たり前ではあるのだけれど、とても真面目な顔をしているのに、枠からはみ出そうなくらいパンパンなので腹を抱えて笑ってしまった。その知人もその写真を見ると笑えてしまうそうで、元気がないときに見るようにしているらしい。お守りみたいなもんですね。
それをLPサイズでやってみたのが「ブッカ・ホワイト/パーチマン・ファーム」だ。顔のアップのブルースLPジャケットは数あれど、ここまでのどアップは多分ない。ここまでデカイとあまりの迫力に圧倒されてしまいそうだ。LP名の「ファーム」のせいかもしれないけれど、初めて写真を撮らされた農夫みたいな感じがする。そうやって想像するとちょっと微笑ましい。
私はこのLPをネットで入手したのだけれど、もしこれをお店で見つけたとしたらビックリしそうだ。パタパタLPめくってたら突然この迫力のある顔がドーンと出てくるんだもんね。
さて、このブッカさんは戦前に活躍した人でロバート・ジョンスンやサン・ハウスと並び称されるデルタ・ブルースの巨匠ということだ。まあ私には聴いてみてもどれも同じように聴こえてしまうのだけれど、特にこの人の場合は何度聴いても曲の区別がつかなかった。ロバート・ジョンスンやサン・ハウスはもう少し区別がついた気がする。
しかしこのLP、和訳がイカすと話題のCBSブルース・シリーズからの発売なのだ。当然私はこの和訳を堪能しながら聴いている。するとどうだろう、私が「農場」だと思っていた「ファーム」が「刑務所」と訳されているではないか。「パーチマン農場」ではなく「パーチマン刑務所」だったのね。刑務所って意味だとするとあまり微笑ましくはないね。
訳詞をさらに見てみると刑務所の話が何曲かあるようだ。ブッカさんは刑務所に入っていたことがある人なので、その時の経験がブルースになっているのかもしれない。「服を着替えるところはどこだ」なんて曲名だけみると「どんな歌なんだ?」と思うけれど、歌の内容は結構シビアなことが書かれてる。「見知らぬ土地のブルーズ」なんかは考えさせられる興味深い内容だ。やはり歌っている内容を少しでも理解できると、イメージが全然変わってくるもんだ。やはり訳詞があるとありがたいなぁ。
ちなみに冒頭で話した知人とはもうすっかり疎遠になっている。それは何人かの仲間と飲み屋さんで徹夜していたときに、寝ていたその知人が起きしなに、私の頼んだ茶碗蒸しを全部食べたからだ。それ以来その知人のことが嫌いになって疎遠になってしまった。もし私がブルースマンだったら「起きしなの茶碗蒸しブルース」を作ってやりたいくらいに恨みは深い。

ブルースの
調べはブッカの
恨み節

季語はブルース。

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