岸田國士をズーム演劇化してみました


岸田國士の名作「紙風船」を現代を舞台にしたズーム演劇にしてみました。岸田國士の構造を完全トレースしてみたつもりです。シナリオを公開いたしますので、忌憚の無いご意見など聞かせて頂けますと幸甚です。


○ズーム画面
   
   勇太と夏美。
   それぞれの部屋の中。

勇太「本日の東京都内の感染者数は893人と新
 記録を示しました。長引く自粛生活によりDV
 や虐待が増えているとの調査もあり…」

夏美「話すことないからってネットニュース朗読
 するのやめなよ。もういいよ、川上さんとオン
 ラインゲームやれば?」

勇太「別に川上とゲームとか飽きたし。あ〜暇潰
 しにヤフー知恵袋に質問でもすっか」

夏美「はあ?なんて質問するの?」

勇太「付き合って1年。マンネリ気味のカップル
 が自粛期間中の日曜日をどう過ごしたらいいで
 すか?」

夏美「なんかやな感じ。でも、そんな質問、簡単
 に答えられるでしょ?」

勇太「へえ。どう答えんの?」

夏美「二人で同じ映画をネットフリックスで同時
 に見るのは如何でしょう?同じ映像を二人で見
 たらその後の会話も弾みますよ」

勇太「何それ。映画とか別々に好きなの見れば良
 くない?」

夏美「なんでよ。同じの見るから楽しいんじゃな
 い?」

勇太「もう良いって。俺たち別に休みの日にもず
 っと同じことするために付き合ってるわけでも
 ねえだろ?」

夏美「ゆうくんが最近、全然私と話してくれない
 からこういうこと言ってるんだけど」

勇太「一年も付き合ってて今更何話すん?」

夏美「何話すかは良く分からないけど、話せない
 っていうのは嫌なの」

勇太「そんなこと言われても、夏美だって話さな
 いだろ」

夏美「それはゆうくんが煩そうにするから」

勇太「違うよ。夏美がテレワーク中に話しかけて
 くるからだろ」

夏美「テレワーク中でなくたって煩そうにするじ
 ゃない。別に私、ゆうくんと一緒にいれたらそ
 れで満足だけど、でも…」

勇太「よし、こんな時だけど、たまには出かけて
 みようか?」

夏美「えっ?」

勇太「日帰りで鎌倉とか」

夏美「私、原宿に行きたい」

勇太「原宿?近すぎない?」

夏美「夜の原宿よ。想像して。今夜の原宿がどん
 な風になってるか。町には誰もいない」
   
夏美のズーム背景、夜の原宿になる。

勇太「はあ?誰もいないとかまじつまん…なくね
 えな。やばい。世界の終わりに夏美と二人だけ
 でいるみたいだ」
  
  勇太のズーム背景、夜の原宿になる。

夏美「それから、二人でナイトプールに行くの。
 一件だけナイトプールやってるホテルがあって
 ね。完全に二人だけの貸切状態」

  夏美のズーム背景、ナイトプールになる。

勇太「おお!いいね。もういっそのこと、そのホ
 テルで泊っちゃおうよ!いまホテルもめっちゃ
 安くなってるでしょ」
  
  勇太のズーム背景、ホテルに変わる。

勇太「いやあ〜最近全然夏美とやってなかったか
 らなあ〜。久々に見たら、あれ夏美の胸ってこ
 んなにふわぽよだったかなあって、あれ?自粛
 期間中にちょっと太って巨乳化されてませんか、
 夏美さんて、今日は揉ませていただきますよ!
 やべえ、想像するだけで興奮してきた!」
   
  夏美のズーム背景オフ。

夏美「ゆうくんって、丁度良いっていうのがない
 よね…」 

勇太「あ…。ごめん」

   勇太のズーム画面オフ。

夏美「…別に、良いけど…」

勇太「…ねえ、夏美はずっと俺と一緒にいるのが
 嫌にならない?」

夏美「何?ゆうくんはどうなの?」

勇太「俺、夏美に振られたらって思うだけで怖い。
 でも、隣に夏美がいても、もう何して良いか分
 からなくて。俺たち、本当にこのままで良いん
 かな、夏美もそう思ってるんじゃないかなって
 …」

夏美「私、大丈夫よ。私、もう分かった気がして
 るから…」

勇太「分かったって何を?」

夏美「ゆうくんと付き合うっていうことがどうい
 うことか…」

勇太「…。俺、夏美のこと好きだよ。でも、この
 まま夏美とずっと二人だけでいると思うと怖い」

夏美「私も怖い」

勇太「…。俺たち結婚したら犬でも飼う?」

夏美「…。小鳥の方が良くない?」

勇太「…。ねえ、話しようか」
夏美「えっ?」
勇太「あるところに男と女がいました。男の名前
 は勇太。女の名前は夏美。二人はマッチングア
 プリで知り合いました」
   
   勇太、夏美二人のズーム背景に
   「いきなりオンラインデート」
   と表示。

勇太「お互い、好みの条件を入力して知り合った
 のでした。二人とももう何度も手酷い失恋を経
 験していて、今更恋愛に何か変な期待感を持っ
 てたわけじゃありません。といって少なくとも
 男の方は冷めてたわけでもなくて、男の方はこ
 の子、タイプだなあって内心考えていて」

夏美「女の方だって、この人タイプだなあって内
 心思ってただろうけど」

勇太「でもある時、ズーム画面越しに二人の目が
 あったような感覚があったんです…」

夏美「ちょっと待って。なんかした?パソコンの
 調子がおかしい」
 
   夏美のズーム背景、紙風船の動画。

勇太「あれ?本当になんかおかしくない?」

夏美「あれ?誰かにハックされたかも?」

勇太「ヤバイなこれ。よしズーム止めよう。俺今
 から夏美の家、行くわ」

夏美「え?でも、無理しなくて良いよ。来たって
 なんか気まずいんでしょ?」

勇太「大丈夫。今日、同じ映像をズーム画面越しに
 二人で見ただろ。俺、今日は話せることがある気
 がするんだ」

夏美「分かった…。待ってる」
   
               (了)

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