OWCモノローグ)ニンゲンのナカマ by 花緒


わたしたちのクニではクジラやゾウを食べます。
クジラは料理するのが大変だし、ゾウは美味しくありません。
でも、クジラやゾウだったら、ひとつのいのちで、たくさんの命を支えることができます…。
そうです。わたしたちはいのちを大切にする考え方なんです。
 
わたしたちは小魚を食べません。小鳥も食べません。
空腹を満たすためだけに、かよわくて、小さなどうぶつを無数に殺すのは残酷ですよね。
どうしてみなさんはいのちの尊さを考えないのですか?
 
わたしたちはライオンを食べます。オオカミを食べます。
もちろん、美味しくないですよ。
でも、たくさんのいのちを必要とするいのちは、少ない方がいいじゃありませんか。
 
当然、わたしたちは、わたしたち自身も食べます。
役に立たないニンゲン、価値のないニンゲン。
そういうのを煮たり、焼いたり、唐揚げにしたりして食べます。
 
ニンゲンの肝臓の煮付けはとっても美味いですよ。
言っているでしょ?
私たちは、いのちを大切にする考え方なんです。
 
 
ここまで話したら分かりますよね?
わたしのアニが、旅行中にみなさんのクニで事件を起こしました。
みなさんの言葉では、殺人事件って言うらしいですね。
 
みなさんのクニは、ニンゲンの舌を楽しますためだけに、無数の小魚を殺してパック詰めにするような、穢れを知らないクニです。
アニは肉屋と呼ばれる場所の軒先で、ウズラの串焼きを嬉しそうに頬張る女の子をみつけて、思わず呪いの言葉を発したそうです。

この生はあるべきでない!
そう考えたアニは、ミッキーマウスに会わせてあげるよ、って言葉巧みに女の子を公園に呼び寄せ、ナイフで頸動脈を切り裂きました。
入念に血抜きを行い、肝臓や大腸などの臓物を取り出し、
胴体と首を切り離しました。
三枚におろして、その場で女の子の干物を作りました。
どうです?美味しそうでしょ?
 
ここから先は皆さんもご存知の通りです。
アニは警察に捕まって、死刑になったんです。
もちろん、それは構いません。
だって、皆さんは私のアニに価値を感じなかったんでしょう?
 
でも、みなさん、私のアニを食べなかったじゃないですか!
「どうしてアニを食べなかったのですか、どうして殺したのに、食べなかったのですか」と私は手紙を書いて抗議しましたが、それが原因で、クニの場所が突き止められてしまいました。
そして、わたしのクニはみなさんから攻撃を受けることになったわけです。
 
なんとか難を逃れたわたしは、みなさんのクニに潜伏して、手当たり次第、ニンゲンを食べることにしました。
みなさんのような、ニンゲンを食べることを忘れた野蛮なクニでは、死を望む若者たちが絶えることはありません。
死にたい、死にたいと呟く若者を見つけては、一緒に死んであげるよ、と優しい言葉をかけて、マンションにおびきだして、一人ずつ殺して食べていきました。
食べきれなかった肝臓は燻製に。頭部は漬物に。
いま、この部屋には20頭を超えるニンゲンの保存食があります。
 
そのうちわたしも捕まって死刑になるでしょう。
わたしがこの世から去る前に、みなさんに伝えたいことがあります。
みなさんが、百万頭のウシを殺し、千万匹のニワトリを虐待し、その上で生きることに価値を感じられない、そんな呪われたクニにおいても、このクニのどこかには、まだニンゲンを食べるニンゲンが生き残っているのです。
 
もし見つけたら情けをかける必要などありません。
迷うことなく殺してください。
そして、食べてください。
だって、わたしたち、同じニンゲンのナカマじゃないですか。



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