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紅いキョーチクトー

昨日、アイスバー「ねっとり濃厚な味わい まるで完熟メロン」を食べたベンチの近くでは、男の子2人がラップの練習をしていた。今日は少し離れたベンチに座る。紅い夾竹桃が咲き始め、落ちた山桃の実の赤黒い点々が、公園の砂の上に影を描いている。そろそろ白桃の季節だ。

自転車に乗ってやってきた小学校低学年と思しき女の子が、『ガリガリ君 うめ』を齧っている私をチラチラ見てくる。私と同じぐらいの長さのおかっぱ頭。
2日続けてこの近くの線路沿いを歩きながら写真を撮っている。昨日撮った分を家に帰ってPCで見てみると、思いのほか背景がボケていた。スマホで撮った風景写真みたいに奥まではっきり写っていた方が良かった気がした。デジカメとスマホ、カメラとレンズについての語りは端折るとして、幸い今日も晴れているので同じ時間帯に撮り直しに来たのだ。ガリガリ君を食べ終えたら画像データを確認してみようかな?いや、背面モニターでは小さすぎてわからないだろう。

後ろでバシャッと音がした。振り向くとさっきの自転車の女の子が、公園に巡らされている浅い水路に足を浸して歩いていた。気づいて欲しくて水音を立てたのかい? この距離ならマスク無しで声をかけても大丈夫だろう。「水、冷たい?」
ペパーミントグリーンとピンクのクロックスっぽいサンダルがちらっと見えた。私の世代だと「サンリオのキキララっぽい配色」で通じるかもしれないけれど、今だと何に例えるんだろう。「うん」と答えて、彼女は静かに水路を逆行していった。

ラップの2人は練習を終えたのか、水路のほとりに並んで座っている。ラッパーというより学生さんという雰囲気だ。会釈をして、カメラを持っているこちらに気づいてもらう。
「小さく写ってしまうかもしれないけど、いいですか?」
「いいですよ」
「大丈夫です」
まったくの他人にこんな風に声をかけることを、以前よりもずっと躊躇するようになった。今日は1日に2度もそのハードルを越えている。ということは無自覚なだけで足りていないのかもしれない。こういう、ささやかな一回性の何かが。

帰宅すると、それを待っていたかのように夕立ちがやってきて、カーポートのアクリル板を叩いた。彼女も彼らも濡れずに済んでいるだろうか。日焼け止めを塗っていなかった半袖の腕が少しヒリヒリする。
そういえば、紅いキョーチクトー、昔と比べるとあまり見なくなった。

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