キングオブコント2023で塗り替えられた4つの記録
サルゴリラが激闘を制し、見事な優勝を遂げたキングオブコント2023。点数の開きをみるとサルゴリラが圧倒したように映りかねないが、今大会は多くの記録が塗り替えられた大接戦となった。それを象徴するように塗り替えられた4つの記録から、大接戦を総括していきたい。
①トップバッターの歴代最高点数
審査員5人による500点満点の形式になった2015年以降、長らく2019年うるとらブギーズの462点がトップバッターとしての歴代最高点数だった。
今回、カゲヤマはお尻丸出し謝罪ネタという、異常なサラリーマンの姿で笑いの渦を巻き起こし、469点をマーク。7点更新と大躍進した。
たった7点!とはとても思えない。賞レース、特にM-1やキングオブコントでは、トップバッターでは点数が伸びない。審査員からすると、せめて90点程度に抑えないと後々、「さっきより面白いコンビ」に高い点数をつけられなくなるというのが大きい理由だ。基準となるトップバッターへの採点は慎重になることが多く、ウケが大きくても様子見されることが多い。
まして、キングオブコントはレベルの向上に従い、点数がインフレ化したことに伴い、順位間の点差が詰まっている。今大会でもファイナルステージ進出のボーダーとなったニッポンの社長(1本目468点)から最下位のゼンモンキーまでは12点しか離れていない。
なお、過去大会のトップバッターのレベルが低かったかというと、当然そんなことはない。2019年うるとらブギーズのマジックネタはキングオブコント史に残る名作だが、以降も滝音の大食い大会(445点)、蛙亭の中野くん緑色吐瀉物ツカミ(461点)、クロコップの遊戯王あっち向いてホイ(460点)が披露されてきた。
記憶に残る名作ネタでも飛び越せない、うるとらブギーズの点数はかなり高い壁となってきた。今回、カゲヤマがとうとう塗り替えたのは快挙だと言える。2021年に迫るレベルの高い大会の立役者になったことの証明だろう。余談だが、3組がファイナルステージ進出という制度が始まった2018年以降で、トップバッターでファイナルステージに残ったのも、カゲヤマが2019年うるとらブギーズに続く2組目だ。
②10位(決勝進出者の中の最下位)の最高点数
今回の10位はゼンモンキー(456点)となった。これも総じて今回のレベルの高さが表れた数字で、2015年以降、最高点数となっている。
同率9位の場合などもあるので、最下位という表現を使わざるを得ない。が、適切とは言いがたい。決勝進出者の時点で、ベストナインに選出されたようなものなのだ。その優れた人たちの中で、今回、少しだけ結果として点数が低くなった。その程度のことでしかない。
そして、今大会のレベルの高さ、というか年を追うごとにレベルが上がりすぎていると感じてしまう数字こそがゼンモンキーの点数である。2019年大会のファイナルステージのボーダーは、ジャルジャルおよびGAGの457点だった。それが、今では最下位とみられてしまう点数となったのだ。
もちろん、点数を鵜呑みにして経年で比較し、面白さの指標にするのは間違いだ。ただし、低い点数が出にくい=相対的に点数が下がるような組が少なかった、ということだ。つまり、明確にスベった組がいないと、最下位の点数が上がるのだ。
2021大会からそんなことをキングオブコントは言われてきたが、とうとう「スベらない」どころか「全員ウケてる」になってきた。2019年から続くこの最下位点数の更新を、芸歴4年のトリオがしっかりとこなしたのは、素晴らしいことだった。
なお、10位経験者には強い芸人がゴロゴロいる。強い芸人とはどういう道であれ、笑いを取り続けている人たちを指すと私は思う。どうかフレッシュな笑いが円熟し、またキングオブコントの舞台やテレビ、劇場でゼンモンキーの、お笑いが大好き!なことがよく伝わるネタを観たい。がんばってください、応援してますゼンモンキー。
③評点差最少
評点差。要するに、100点満点とはいえ、実際のところ、何点〜何点の範囲で採点が行われたの?ということだ。
今大会は90〜97点。つまり、8点の範囲で審査が行われた。これは年によってバラツキがあるが、最も狭い範囲での審査となったのだ。つまり、出場者に差があまりなかったと言えよう。
「なるべく順位をつけたい」という松本人志の発言もあったが、松本人志はできるだけ差をつけ、同点を減らすというポリシーが過去の採点から読み取れる。しかし、今年は92点2組、93点3組、94点2組と、同じ点数で並べることが目立った。こういった結果はM-1でも起きたことがなく、稀に見る接戦だったことの表れだろう。
厄介なのは、ここまでの接戦になってしまうと1点の重みが増してしまうことだ。何点の差の範囲で順位づけをしていくかというのは結果論だし、終わってみてもし1人の審査員だけ、20点の幅で順位をつけていた場合、その審査員が全てを決めることになってしまう。
合計点数のデカさ・派手さ、すぐに結果がわかるなど、エンタメを考えると今以上の採点形式は無いように思う。しかし、後から修正できるようにするなり、一番上はカットするなりといった対策が、もしかしたら今後は必要になるかもしれない。
④歴代最高点数(ファースト・ファイナル合計)
2021年空気階段(960点)→2022年ビスケットブラザーズ(963点)→2023年サルゴリラ(964点)と、合計点数の最高値がまた更新された。
空気階段以後、王者は必ずファーストで480点を上回っている。審査員1人あたり、平均96点を取る必要があるということになった。なんだその凄まじい数字は。
トップ不利という定説はカゲヤマにより少し崩れたように思うが、やはり後半の高得点が出しやすいゾーンで笑いを掻っ攫えると強い。というか、強い点数を一度出すと、差が小さい分捲れない。
今回、ファイヤーサンダーの作った空気を受け、サルゴリラは見事な爆笑を巧みなワードチョイス、所作、設定、小道具で一気に客を掴んだ。大会のレベルが上がった中で突き抜けられたのは、「その2人でしかできない強いフォーマット」を見せつけたからだと、個人的に思う。瞬間最大風速を掴むことの重要性が、年々、キングオブコントでは重要さを増している。
総括
今回は460点台に8組が集中し、そして接戦となった。このペースで行くと、ファイナルステージ進出のボーダーはこれから、470点、つまり平均94点と見ておいた方がいいだろう。450点(90点平均)で安心できた時代は終わってしまったのだ。なぜならとうとう、今回は80点台が一度も出なかった。80点は出た瞬間に終わりとなり得る、怖い数字と化した。
アキレスと亀の話があるように、必死に頑張っている間も前にいる人間が努力してるから、追いつくのは難しいということを、普段考えてしまう。キングオブコントのように、全体のレベルアップを数字で見せつけられるのは、ある意味で非常に残酷なことだとも思う。それで心が折れるのはちっとも不思議じゃないことだ。
だからこそ、そのハードルを超え続けて笑わせてくれる芸人さんは、日々のエネルギーを与えてくださると感じる。
賞レースに挑戦し続けてくれている芸人さん、心からありがとうございます。大好きなジグザグジギーがYouTubeチャンネルを作ってくれて本当に嬉しい限りです。
キングオブコントが終わると脳汁が出過ぎて疲れますが、年末にはM-1も控えていますね。お笑いが好きな厄介な性癖の皆さま、一緒にハラハラしながらたのしみましょう。
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