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夏の裁断

「奪わたものなど、本当は、とっくの昔に失くしていたのに。」

壊された、と思っていた千紘の心はそれはもうずっと昔に壊れていて埋もれていた心をもう一度ボロボロにして、これでもかというくらいどうても良くなるまで落ちて行って、分かる、分かりますその気持ち。全部が嫌になって幸せが怖くなって、不幸せになるようにわざと自分の心を傷つける。その時には麻酔を打つようにお酒をいれる。こんなこと正しくないと分かっていても苦痛やセックスが生きているという実感をあたえてくれるもの。それを手繰り寄せる。誰でもいいのです。触られると嬉しいんですよね。ここにいていいんだと、触れられて初めて実感するんですよね。



「関係性を定義づけたら離れていかないものなんですか?人は。」

結婚したからといって幸せになれるとは限らない。1+1=2じゃない。増えない。それだったら友達でもセフレでも会社の人でもみな同じなのでは。彼氏とか彼女とか夫とか妻とかそういう名前をつけてこの人は私の特別な存在。この人は私の夫という印が欲しい。それが愛(?)なのか分からないけどそういうのってだいたい消滅する。変わる。それなのにそういうの押し付けてくる人って本当に嫌い。誠実さがないと思う。好きだよずっとそばいにいたい、そんな言葉が私は大嫌いです。


夏の裁断

私の心の奥深くに沈み込んだ言葉たちを千紘が代弁してくれているような。抑え込んでいた気持ちを箱の上から覗かれたような。読んでいて苦しかったです。とても。だけど、私も前に進めるかな、と少しほんの少し光が見えました。ほんの少しの光が私は好きです。大きな光は眩しくて目がいたい。

正しくない私のままで。小さな光を見失わないように歩いていけるかな。

もう夏は終わってしまったけど。


私は島本理生さんの小説が大好きです。


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