【思い出】ハリーの人差し指①

高校生のころに初めて生のスライダーズを目撃した。地元のラジオ曲にゲスト出演したのを観に行ったのだ。ライブもあるのに無料だった。
その上、今では考えられないが予約も整理券もなく直接公開放送のスタジオにいっても会場に余裕で入場できた。

それほど大きなスタジオではなかった。ハリーのテレキャスターも蘭丸のサイケにペイントされたSGもギタースタンドに架けられて手を伸ばせば触れるほどの距離に無防備にセットされていた。

翌日がツアーの初日でその宣伝だった。アルバムでいうと『ジャック・アウト』のツアーだったと思う。
ライブに参戦できなかったのは単純に「お金」がなかったからだ。

番組が始まって司会とメンバーがスタジオに入ってきたがなぜかハリーがいない。もしかして……
ハリーは体調不良のため欠席だった。
翌日からのツアーに備えて用心に用心を重ねてのことでツアーは予定通り行われるとのアナウンスがあった。重病でなくてホッと胸をなで下ろしたがライブはお金を出して観るものだと高校生ながら思ったものだった。自分にとって大切なものには身を粉にしてでも稼がなければいけない。そう思った。

当時はまだスライダーズは寡黙で恐いイメージが残っていた。
ライブ演奏はなくなってしまったが、曲をかけて合間にメンバーのトークが入った。
饒舌ではないがそれなりに話をしていてジェームとズズの語りを聞けたのは当時としては僥倖と言ってよかった。まあ、オンエアされてはいたのだが。

後日、音楽誌で初日のライブレポートを読んだが、ハリーの調子が優れず会心のデキではなかったようだ。ツアーが進むにつれていい感じになっていったようではあるが。
当時のライブはハリーの体調によって波があるようだった。
何かのインタビューで蘭丸が「体調管理」も重要と発言していた記憶があるし歌詞を含めて「ちゃんと歌え」的な発言もあった。
三十年以上前の記憶なので自信はないけど蘭丸の音楽にかける真摯さが印象に残っている。
その後ハリーのヴォーカルも荒々しさだけではなく丁寧さが加味されステージでの佇まいも変わってきた。

『NASTY CHILDREN』のジャケットのように手だけで自己主張できるアーティストもそうはいない。