愛が何かも分からないけど
大丈夫だからね、彼は私にいつもそう言っていた。
いつでも彼は私に無条件の優しさをくれた。
「大丈夫だからね」と。
私は彼のその言葉を信じていた。
誰よりも彼の言葉を信じていた。
彼はその言葉通り、どんな時でも私の味方でいてくれた。
そう、そんな時間が永遠に続くと思っていた。
彼は素敵な女性を見つけて、結婚するんだと私に言った。
彼は言葉少なに、たどたどしくその事を私に報告した。
彼が私にくれた最後の優しさは、私に彼女の
事をどんな人なのか、教えてくれなかった事だった。
彼は、私と彼女はどんなところが違うのか、その答え合わせをさせてくれなかった。
それが彼の優しいところでもあり、残酷なところでもあった。
彼もその事を自分自身、十分に分かっていた。
だから、彼はいつも通り私に優しく、いつも通りの笑顔で、私に彼女との結婚の話をしてくれたのだ。
私が不貞腐れないように、悲しまないように。
いつか、私も本気で人を好きになる時が来るだろう。
だけど、その時が来るまでは、彼の今までと少しも変わらない笑顔と、「大丈夫」のその言葉に頼らせて貰おう。
これから私が出会う人を私は、彼と比べてしまうのだろうか。
比べられないいい人に出逢えるように、私は自分の成長を静かに願う。
祈るんだ。