知ってるつもりになっている
前回の投稿の最後にご紹介した、P.F.ドラッカーの著書「創造する経営者」を改めて読み返していたら、まさに今の時代にぴったりの章がありました。
今回は、第7章「知識が事業である」からの引用を交えながら書いていきます。原題は「Knowledge is the business」です。しびれますね。
「知識が事業である」とはどういうことか?
事業というと、物やサービスを売ることだと考えがちですが、顧客は物やサービス自体にではなく、それらがもたらす恩恵(ベネフィット)に対価を支払っています。
物やサービスを提供する側は、それらを通して顧客の課題を解決するための知識(Knowledge)を持ち合わせている必要があり、その知識こそが本当の商品なのです。
例えば、私がステップナーという商材を売っているとしましょう。それを必要とする顧客は、ステップナーについて詳しくないか、なんならその存在すら知りません。なので、いくら私が「ステップナー要りませんか?」と呼びかけても、おそらく興味が沸かないでしょう。
ところが、私がステップナーを通して、顧客のお悩みを解決する知識を持ち合わせていたとしたら、おそらくステップナーのことを知らない顧客でも、興味を持ってくれるでしょう。
顧客が本当に手に入れたいのは、物やサービスそのものではなく、自分たちでは解決できない課題を、代わりに解決してくれる有益な知識です。
では、有益な知識はどうすれば身に付けることができるのでしょうか?
インプットした情報を知識に昇華する
知識を身に付けようとするとき、本を読んだりWebサイトを閲覧したりしますね。ですが、たとえ100冊の本を丸暗記したとしても、それを活用する機会がなければ、ただ情報を摂取しただけに過ぎません。
資格もそうです。多くの時間をかけて資格を取得しても、それを活かすことができなければ、ただ情報を詰め込んだだけです。
インプットした情報を知識にするためには、実践というアウトプットが不可欠です。そして、それが誰かの役に立ったという実績を伴うことで、ようやく有益な知識に昇華できるのです。
そして、誰かの役に立つ機会というものは、待っているだけでは訪れることはありません。積極的に他者と関わりを持ち続けない限り、おそらくそのときはやって来ないでしょう。
知識を活かすには「なぜ?」に目を向けること
私たちが経営相談を受けるときに、よく使う「誰に・何を・どのように」というフレーズがあります。
誰に(Who) :顧客
何を(What):物やサービス
どのように(How):ビジネスモデル
事業をされていない方は意外に思われるかもしれませんが、この3つが明確でないままにビジネスを始めて、行き詰まる事業者は少なくありません。
そのような事業者はたいてい「何を」だけは決まっていて、「誰に」「どのように」売るのかという道筋が見えていません。誰にどんなニーズがあるか分からないまま、自分が売りたい物やサービスを闇雲に売ろうとしているという状態です。
知識を以て事業をするためには、「誰に・何を・どのように」を考える前に、顧客が「なぜ」買うのか?を知る必要があります。
なぜ(Why):物やサービスを購入する理由
顧客が物やサービスを購入する理由は、何らかの恩恵を受けたいからです。その背景には、顧客が抱えている解決したい課題があります。まず「なぜ」に着目した結果として、「誰に」という顧客像が明確になってくるのです。
この「なぜ」を知るためには、顧客と対話をする機会を持ち、顧客のことをよく考え、ときに顧客から課題を引き出そうとする努力が求められます。
他者に関心の目を向けて、相手と同じ目線でものを考える姿勢が必要です。
知識は人間的な資源である
「創造する経営者」が発行されたのは1964年ですが、ここで引用した一文は、まるで私たちに向けて発せられたかのような、現代にフィットする内容です。
昨今は「AIに奪われる仕事ランキング」などが世間を騒がせています。
「私の仕事はいつまであるのかしら」と、不安に震えている方もいらっしゃるかもしれません。
ですが、ドラッカーが「知識は、優れて人間的な資源である」と綴っているとおり、有益な知識を提供するという仕事は、この先も人間が担当することになるだろうと考えています。
AIは日々進化していますが、今はまだ顧客に関心を持つことも、顧客に寄り添うこともできません。心ある仕事を実践していれば、心がAIに実装される日までは、人間として仕事を続けていられるのではないでしょうか。
では。