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「映像屋がフォトスタジオを立ち上げるということ 3/3」

今回はフォトスタジオという新規事業を立ち上げるに当たって、その指針となる方向性の話をしたいと思います。その前にまず写真館業界の実態を把握する必要があり、全国の写真関係者の話を聞きながら自分なりの市場調査を実施しました。分かったことは、写真館は大きく分けて4つの類型に分類できるということでした。

◆第1世代型:フィルム時代から続く昔ながらの町の写真館。背景紙を使った家族写真の撮影や近隣の幼稚園や各種学校のイベント撮影等をメインとしたオールドスクールなスタイル。

◆第2世代型:資本力を武器に全国展開している大手チェーン店舗型写真館。最大の特徴は圧倒的な物量で投入する貸衣装。誰が撮っても一定品質の写真が撮れるような仕組みで効率を上げ、回転数を最大限にすることで単価を抑えることができる。現在写真館ビジネスの主流とも言える、収益性を最大限に考えられたモデル。

◆第3世代型:ビジネスモデルの基本形は第2世代型モデルを踏襲。特に空間演出に対して大きく投資して世界観を作りこみ、付加価値を上げて差別化を図る。第2世代型が提供する量産型写真撮影のクオリティーに満足できない顧客層をターゲットとしている。

◆第4世代型:空間演出を重視する第3世代とは真逆のミニマルな運用思想。本質的な写真の意義に立ち返り、写真そのものの品質やテーマを価値として見出す傾向。感度の高い顧客層をターゲットとし、衣装や空間よりも普遍的価値の創出により重きを置く。

スタジオという物理的な空間を持たない出張撮影専門のフォトグラファーもこの第4世代型のカテゴリーに入れることができるかもしれません(もはや写真館が空間を持つ必要性すらなくなるかもしれない)。

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ミニマリズムとマキシマリズム

自分なりの市場調査を経て、これから立ち上げるフォトスタジオの基本的な方向性やテイストを決めていきます。本業である映像制作事業(オンス)のフィロソフィーや理念との整合性を考えると、目指すべきはおのずと第4世代型のテイストに分類されることになります。ここ10年以上の世界的なトレンド的観点からも、Kinfolkなどに見られるシンプルでスローリビングなライフスタイルにも合致すると思います。余計なものを削って余白を創り出すことで、想像性を喚起するというのがオンスの哲学の根底にあります。引き算の美学はミニマリズムの考え方と非常に相性が良いのです。

とはいえ、ミニマリズム的概念が普遍的であり、絶対正しいかというとそうとも言い切れません。美術史を読んでみるとムーブメントに対して必ずそれに対抗するカウンター(反動)が起こり、新しいムーブメントが形成されて次のトレンドになるということが繰り返されています。ミニマリズムというムーブメントに対抗する新たな運動は必ず発生します。その新たな運動が「マキシマリズム(Maximalism)」と言われています。Less is more(少ない方が豊かである)からMore is more(多ければ多いほど良い)に。第3世代型フォトスタジオの特徴である圧倒的物量のモノで空間を埋め尽くして演出するというやり方はまさにマキシマリズムの典型的な考え方だと思います。

ただ、ミニマリズムもマキシマリズムも一見正反対の思想に見えますが、最終的な目的は一緒です。ようは自分が心地良いかどうかであり、それ以上でもそれ以下でもありません。どちらが正しくてどちらが間違っているというものではないのです。今回立ち上げるフォトスタジオはミニマリズム的概念を基軸にした方向性で商品開発を行っていきますが、今までの「余計なものを削って少なくする」というミニマリズムとは違う「ウォームミニマリズム(Warm minimalism)」や「ソフトミニマリズム(Soft minimalism)」という「あたたかみのあるミニマリズム」(「再生」や「持続可能な快適さ」「自然」などの要素)の方向性でバランス感覚のある打ち出し方を考えています。

シンプルでスローな日常の中に、あたたかみのある快適さを演出する。そういう新規事業になればいいなと思っています。


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