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第40回 超ニコニコ結婚式~その三~

 2019年4月27日ニコニコ超会議初日。とうとう超ニコニコ結婚式の本番を迎えることとなった。(ここに至るまでに、指輪選びだとか、当日着る新郎新婦の衣装のフィッティングだとか、色々とイベントはあったのだけれど、特筆すべきことはないので割愛)

 関係者専用の入り口から会場内へと入り、専用の控え室に通された後は、用意された衣装へと着替えた。私はタキシードで、お嫁様はピンクの花びらをあしらったミニスカートタイプのウェディングドレスだ。
 さらに、私は京劇の面を着けた。当時のTwitterアイコンが京劇の面の写真だったので、それを着けたほうがわかりやすいだろう、という考えだった。(一部の人達には、身バレを防ぐためにやっているのだと誤解されていたけど、そうではなくて、単純に自分のトレードマークであったため)

 結婚式は15時から。
 10時に会場入りしたので、まだまだ時間はたっぷりある。
 なので、専属のスタッフに案内してもらって、超会議の会場内を練り歩くこととなった。
 仮面を着けたタキシードの男と、ウェディングドレスを着た女、という組み合わせだ。否が応でも目立っていたことだろう。だけど、周りの反応を楽しむような余裕は、自分には無かった。

(あああああ、緊張するううう!)

 仮面の奥で、私の顔はガチガチに固くなっていた。

 周りからどんな目で見られているのだろうか。後でネットに悪口を書かれたりしないだろうか。大した実績もないのに目立ちたがりな小説家だと思われていないだろうか。そんな不安が押し寄せてきては、いや、気にするな、堂々としろ、と自分を奮い立たせたりする。

 お化け屋敷等の各ブースにお邪魔して、一通り楽しんだ後は、ニコニコ超会議名物の人力馬車に乗っての会場内遊覧となった。

 人力馬車に乗る際には、マイクを渡された。自由にマイクパフォーマンスをしていい、と言われたが、気の利いたことを喋れるスキルなんて持っていない。どうしよう、と胸をバクバクさせていると、馬車が動き始めた。

 周囲の人々の視線が一斉に集まる。

 ふと、またもや、かつてデビュー作を出した時に、ネット上で散々ボロクソに書き込まれたことを思い出す。
 この会場に集まっている人達は、ほとんどがネットユーザーだろう。
 みんな、悪意を持って、自分を見ているに違いない。
 それがネットというものだ。人の優しさなんて欠片もない。そら、見ているがいい、浮かれた自分達に対して、冷たく白けた反応が返ってくるはずだ――

「おめでとー!」

 ――その声が飛んできた瞬間、私は、えっ? と戸惑った。

「おめでとー!」
「おめでとー!」

 あちこちから祝福の声が飛んでくる。
 みんな笑顔を浮かべ、優しい眼差しで、私達のことを見ている。

 悪意なんてものはどこにもない。

 私は、胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じた。
 デビュー作の時に受けたショックが原因で、自分の中で壁を作っていた。人間に対して不信感を抱いていた。だけど、それは間違いだった、ということに気が付いた。
 今、こんなにも多くの、見知らぬ人達が、無条件で自分達のことを祝ってくれている。なんて温かいのだろう。
 人の悪意に振り回された末に、どす黒く濁ってしまっていた自分の心が、どんどん浄化されていく。

「ありがとうございます! ありがとうございます!」

 マイクを通して、周りの人々にお礼の言葉を述べる。

 やがて、人力馬車での会場内遊覧も終わり、一旦控え室へと戻ることとなった。

「夢が叶っちゃった」

 とお嫁様は喜んでいた。
 何かと言えば、人力馬車で会場内を遊覧したことである。元々、ディズニーランドで結婚式を挙げたい、と願っていた彼女は、大勢の見知らぬ人達の前で結婚パレードをやるのが夢だったそうだ。それが、結局ディズニーランドでは挙式できないとなり、若干テンションが下がっていた。だけど、今日こうして、超会議の会場で小規模とは言えパレードのようなことが出来た。そのことがお嫁様は嬉しかったようだ。
 そんな彼女の笑顔を見ていると、ああ、この超ニコニコ結婚式に挑戦してみて良かった、と心の底から幸せな気分になった。

 そうこうしている内に、ゲストで呼んでいた新郎新婦の友人達が、控え室へと入ってきた。

 お嫁様の友人は五人。

 私のほうは、友人の作家である猪野志士さんと、羽根川牧人さん、それからイラストレーターのうめじそさんに、漫画家の卵であるマルオさん、といった自分にとってはお馴染みの仲良いメンバーを招待していた。

 お嫁様は、学生時代の友人からお祝いの言葉をもらった際に、感極まって泣いたりしていた。そんな光景を見ていると、こっちまでウルッと来てしまう。

 そして、とうとう時間が来た。

 超コスプレエリアのブース内にあるステージで、結婚式は執り行われる。ステージの側まで行った我々夫婦は、ゲストの皆さんに見送られながら、舞台裏へと入っていった。

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