溶けないでドーナツホール


哀しみをのぞけない望遠鏡ばかりが売られている、きみの胸の中はきっと夜空みたいに、要は宇宙みたいにめちゃくちゃでやけに広いはずなので、奥の奥のほうにぽつんと浮いてる、誰もいない惑星みたいな哀しみを見たいなら望遠鏡を買うしかないのだ。
仕方がないからかわりにドーナツを買っていった。ドーナツは穴があるからドーナツで、みんなそれでいいって、それがいいって知ってるから、わたしの穴もおんなじように価値があるって勘違いしそうになる。
穴のかたちがなんだか日に日に悪くなっているかもしれないとわたしがうんと悩むあいだ、きみはこれをドーナツと呼ぶかドーナッツと呼ぶか、それくらいしか気にしてなくって、デートの待ち合わせに遅刻してくるきみを待っているときの気分、波みたいに押し寄せる、孤独に似たざわめき、わたしの名前を呼ぶとき、すこしも迷ったりしないくせに、迷ったりしないから、きみを待てるのに。


ドーナツの穴のあいだからこぼしたため息、幸せが逃げていくよと言われるのが今日も嫌いなままふくらんでいく過去、未来、2つのバルーン、この手から離して飛んでいったそれを泣きもせず見ていたあの日からわたしは冷たい子になって、チョコレートは溶けないから都合がいい。


(きみに穴をあけちゃう前にはやく冬になってね)











生活になるし、だからそのうち詩になります。ありがとうございます。