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最近ハマっていることについて

バイト終わり。バイト先から近くの商店街までを散策がてら歩いてみる。日陰を縫うようにして、少しでも暑さからの逃走を図るも、ここは南国。容赦なく私の身体は熱を帯びていった。堪らずアーケード街に逃げ込む。殺人的な日向とは違い、そこには休日の家族づれの団欒があった。

今日は近くで祭りがあるらしいぞ。そこら中にある看板と催しものがこれ見よがしに告げる。一人暮らしで忙しく大学生活を送る私にとって、祭りに行く元気がそもそもない。情けなさと寂しさを感じながら、雑踏のない方へ自然と足が向かうあたり、日陰にも心を休める場所はないのだと悲観的な気持ちになる。

しかし入り組んだ路地をジグザグに曲がり、気まぐれにどこかの通りに出ないか、あてもなく歩く。そんな散策も私は好きなのだ。イヤホンをつけて好きな音楽を聴きながら人通りの少ない道をひたすら歩く。そんな時間も大切なのかもしれない。そんな思索を巡らせながら、ぶつかった大通り。その通りの一角にその小さな喫茶店はあった。

ビルの一階。隣は工事の途中だろうか、無造作に放り出された瓦礫と剥き出しの階段が終わりの時を待っている。それらを横目に見ながら吸い込まれるように一階の奥へ足を進めた。嫌という程に目を刺す煌々とした蛍光灯の光をその身に受けた観葉植物たちが、ようこそと言わんばかりに私を出迎える。ドアをくぐると通路と対照的にどんよりと照明が落とされた店内。その柔らかな雰囲気が私には非常に心地よく感じられた。

いらっしゃいませ!と快活な主人の声が出迎える。

エアコンが壊れてるから、扇風機で勘弁ね!

そう言って私にお冷と団扇を差し出した。私は軽く会釈をし、ぐるりと店内を見回す。ブラウンを基調に纏められた椅子や机。カウンターに並ぶサイフォン。少し古臭い感じもどこか懐かしい気持ちにさせてくれる。心が和やかになったところで、アイスコーヒーを一杯頂くことにした。

注文してから間もなく、主人が並々とアイスコーヒーが入ったグラスを編み模様が美しいコースターの上に乗せ、私に寄越してくれた。

外、熱かったでしょう。多めにアイスコーヒー淹れておいたからね。

と主人なりの優しさを施してくれた。赤の他人の優しさというのはなんと身に染み渡ることか。このようなやり取りもまた、喫茶店へ行くことの醍醐味であろう。苦味の強いアイスコーヒーが頭を冴えさせてくれる。渇ききった喉と心を潤してくれるそんな一杯。私は店内にあったマッチでタバコに火をつけて、ゆっくりと流れる時間に身を委ねるのだった。

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