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「人は成長するのが好きだから成長という罠にハマりやすいんだ」の話
「面倒さの中かぁ、確かにそうかもしれません」
デンマークに住むアートコレクターさんの家に遊びに来ていた。小さいアート作品が好きだという彼の家には、部屋にも廊下にもアート作品がぎっしり飾られている。
「自分が最短だって思うコースなんて、自分以外の誰かもきっと気づいてるって本当にそうだなって思いました」
何かを叶えたいと思った時、それが叶う最短ルートに思えることをやろうとして、結局、叶えたいことにたどり着けていないのは、そのルートが混みあっているからじゃないかという話を聞いていた。
天才でもない自分が思いつくことなんて、ほとんどの人が思いついてるはずだ。有名人に見つかれば、いい出会いさえあれば。出会いを探すことばかりに夢中になって、いつの間にか作品をつくるという、本来やらないといけないはずのことをやらなくなっていないか。
「もしかしたら、自信がないのかもしれません。作品に自信がないから、作品をつくることに恐れがあるのかも」
時間やお金をかけてつくっても、それがいいものになるかは分からない。ダメだって思ってがっかりするくらいなら、つくらない方がよっぽどマシで。やっぱりダメだったって知るのが怖いから、作品以外のことをがんばってしまうのかもしれない。作品づくりから逃げても、出口なんてどこにもないのに。
「多くの人が陥りがちなのは、成長の罠かもしれないよ」
「成長の罠?」
「そう。たとえば、初めてやることって、成長が早いと思わないか。初めてケーキをつくる、初めて料理をつくる。なんでもいい」
老人は手にしていたアイスクリームを口の中に入れて、ゆっくりと味わった。
「初めてケーキをつくるなら、慣れない手つきでレシピを見返しながら、すごく時間をかけてつくるだろう? でも、三回くらいやっていれば、だいたい手順は分かって、早くつくれるようになるはずだ」
「そうですね」
私は緑茶を飲みながらうなずく。部屋には時間の合っていない時計があり、時を刻む音が室内に静かに鳴り響いていた。
「数回の努力ですぐにある程度できるようになるって、けっこう嬉しいことだと思わないか」
「確かに。そういうのすごく好きです。なんでもすぐできるようになりたい」
「それが、成長の罠だと私は思っているんだ」
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