見出し画像

ロサンゼルスの図書館で聞いた「嫌なことから立ち直るための方法」の話

 ワイルドスピードという映画がある。原題は「The Fast and The Furious」なので、日本でも有名な映画でも、英語のタイトルを言われてもなかなかすぐにはピンとこない。バイオハザードは「Resident Evil」。どちらも、原題ママだったら日本では馴染みのない言葉すぎてウケなかっただろうなぁと感じる。このタイトルを付けた人のセンスはすごい。

 友人の家でワイルドスピード7を見たが、本当に素晴らしかった。主演の一人、ポール・ウォーカーがクランクアップ直前に亡くなったというのも衝撃。最後のシーンには、制作スタッフのポールへの想いがあふれて出していた。私自身、以前のシリーズを一度見たくらいで、ほとんど思い入れがなかったにも関わらず、思わず涙がこぼれるほど、心が動かされた。

 先日、図書館の映画コーナーでFurious(ワイルドスピード)を見かけて、手に取りながら見ていたら、黒いチリチリの髪の毛でピンクのTシャツを着た女性に話しかけられる。英語に少し訛りがあるようだ。

「いいわよね、その映画、私も好き」
「日本でちょっとしか見たことなかったんですが、友人の家で見たらすごくよくて。ポール・ウォーカーのこととか調べちゃいましたよ」
「ふふふ、最後の音楽もいいよね」

 私たちはしばし、映画のシーンの良かったところについて話し合う。それから亡くなったポールのことを再び。

「家族はきっと、本当に辛かっただろうなって思うんですよね。人はどうやって悲しいことや辛いことから立ち直っていくんだろう」
「家族や愛する人の死は本当に大きなことだけど、そんなに頻繁に起こることじゃないわ。日常的にも嫌なことやイライラすることはいっぱいあるわよね。そういう小さな苛立ちから立ち直るのが早ければ、生きるのには少し楽になると思うの。大きいことが起こったとしたら、そこから立ち直る方法は本当に人それぞれ。これをやれば全部オッケー、みたいなものはないわ。でも毎日の小さな立ち直り、いつも気分を気持ちよくしておくこと、それが普通の人の生活には大事だと思うけど」
「そうですね」

 ついうっかり失敗して怒られたり、心ない言葉を浴びせられたり。予定してたことがうまくいかなかったり、大切なものをなくしてしまったり。
 生きていれば気分が沈むことはあるし、そういう時は胸の奥に鉛の塊がのしかかっているように、ギリギリと重く痛む。

「そういうことがあったら、あなたはどうしてるんですか?」

 私は彼女に尋ねる。チリチリした髪の毛は、映画のラムジーのようだ。

「私はね、人生で一番楽しかった時のことを三つ、思い出すようにしているの。それも義務的に、リストを読むみたいに思い出すんじゃなくて。たとえばね、青いビーチを見ながら、彼と一緒にビールを飲んでいる時のことだとしたら、その時食べたステーキの味や、着ている水着の色まで思い出すのよ。まるでそこに自分がいるみたいに。そうやって、一番幸せだった時のことを、丁寧に丁寧に三つ思い出すの。だいたいはそれで気分がよくなるから。それでもダメだったらさらに三つ。さらに三つ。そうやっていくうちに、重たい気持ちはどっか行っちゃうから」

 私は自分について思いを巡らす。自分にとって一番幸せだった時はいつだっただろう。無数の経験が、今はどれも普通になりすぎて、特別をうまく選べない。

「日々ね、自分の幸せな時間をストックしておくのよ。私は嫌なことがあるたびに思い出してるから、すぐに出てくる。いくつもいくつも、たくさんね。そうすると、嫌なことは自分を幸せで満たすためのトリガーになる。そしたら、嫌なことも悪くないかなって思えるの」

 私は過去をあまり思い出さない人だ。だから、過去の幸せな出来事はうまく思い出せない。そう言うと彼女は

「そしたら未来でもいいのよ。つまり、妄想でも。こうなったらいいな、ああなったら最高だなってこと。喉が渇いた時に誰かがレモネードをご馳走してくれたらいいな、とか。ささいなことでいいし。たとえばそうね、ポールの事故が本当はデマで、次のシリーズで最高の演技を見せてくれたらいいなとかって。本当かウソかなんてどうでもいいの。
つまり、自分が幸せだなって感じることで、頭の中をいっぱいにするってこと」

===
これまでのお話はこちらから読めます。
(それぞれ無料サンプルがダウンロードできます)

▼旅の言葉の物語Ⅱ/旅先で出会った50篇の言葉の物語。
http://amzn.to/2rnDeZ0
▼旅の言葉の物語Ⅰ/旅先で出会った95篇の言葉たちの物語。
http://amzn.to/2gDY5lG

ここまで読んでくださってありがとうございます! スキしたりフォローしたり、シェアしてくれることが、とてもとても励みになっています!