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スペースシャトルの前で聞いた「同じ熱量で見る夢」の話

 二〇一三年十二月、本物のスペースシャトルが見られると知り、ロサンゼルスのカリフォルニア・サイエンス・センターへ行く。宇宙服が見られるエリアやエンデバーがここに運ばれるまでのビデオなどを見た後、いよいよシャトルのある部屋へ。

 宙に浮くように展示されたエンデバーは、思ったより大きかった。これほど大きなものを宇宙に飛ばすなんて、人間は考えることが壮大だ。汚れのせいか、くすんだような色になっているエンデバーを、私はいろんな方角から見上げる。

「おっと、Sorry」

 真上を向いて歩いていたら、人にぶつかる。反射的に謝ると、男性からは「ノープロブレム」の言葉が返ってきた。日焼けした黒い肌は筋肉が見事に盛り上がっていて、いかつい顔にグレーがかったひげを生やしている。

「最高だよな、スペースシャトルって」

 男性は組んでいた腕をほどいて、右手の親指を立てて見せる。年齢は四十代前半くらいだろうか。日焼けがはっきりしていると歳は上に見えることが多い。

「すごいですよねー、宇宙に行ったなんて、ほんとにすごい」
「だよなぁ、こいつは二〇一一年まで働いてたんだ。オレは小さい頃から宇宙が好きで、ここに展示された二〇一二年に真っ先に見に来たよ」
「へえー、でもこれは見に来たくなりますね」
「そうさ、こいつには人類の未来が全部詰まってやがるんだ。こんな小さいのに」

 私が巨大だと感じたシャトルを、彼は小さいという。

「本物を見た時に衝撃が走っちまってなぁ。その日に妻に頼み込んだんだよ。『オレはシャトルをつくりたい』って」
「ええー、ほんとに? それで?」
「今は大学に行ってるよ。宇宙工学科に」
「もともとそういうお仕事されてたんですか?」
「もともとはエレベーターの設置工事だよ。今もやってる」
「妻に、ってことは結婚されてるんですよね? 奥さんはなんていったんですか?」
「妻だけじゃなくて子どもも三人いるよ。まぁさすがに自分でも無理だと思ってた。『冗談いわないで』って言われれば、諦められると思ってたんだが…」

 そう言って彼はちょっと遠くに手を振る。そこには長い金髪の華奢な女性が女の子を抱っこして笑顔で立っていた。彼女の周りに小学生くらいの男の子が二人。男の子があちこち指をさしながら、女性に話しかけている。

「『本当にやりたいの?』って聞かれたよ。『やるなら自分の可能性を信じて本気でやりなさい』って。それで丸一日考えて、このまま死ぬよりはチャレンジしたいなって思ったんだよ。大学は入れたけど、夢はまだずっと先さ」
「素敵な奥様ですね」
「まったくだよ。シャトルをつくるなんて言うのは簡単だけど、実際はそんなに簡単じゃない。最初の頃は勉強にも飽きて休んでばかりだった。そんなオレを見ても何も言わないから、彼女に言ったんだよ。『お前にも分かってるだろ、オレはそんな大層なことできる奴じゃないんだ』って、そしたら彼女は言うんだ。『私はあなたならきっとやり遂げるって信じてるわ』って」

 男性の目が彼女を見つめる。微笑みを浮かべた表情に、彼の深い愛情と感謝を感じることができた。彼の夢が、家族の絆を強めているのは確かだろう。

「オレはいつか、オレのつくったシャトルが宇宙に飛び出すのを、家族で一緒に見たいんだ」

 彼がシャトルの発射場の近くで、子どもたちに自慢する姿が目に浮かぶようだ。

「You may say I'm a dreamer but…」

 彼がそういうのを聞いて、私は先に答える。

「You are not the only one.」
「That's it.(それだ)」

 ジョン・レノンのIMAGINEの歌詞の一部だ。彼の夢を、彼女は同じだけの熱量で一緒に見ている。自分の夢を、自分以外の誰かが信じて応援してくれていること。それは何と心強いことなのだろう。
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