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「夜の案内者」かえりみち2

 列車は、今、そこにある!
 空に響く鐘の音と、ティルクの鐘の音が混ざり合い、皮膚の表面をざわめかせる。
 砂丘の傾斜がなだらかになり、立ち上がって顔を振ると、列車が見えた。列車には灯りがともっていて、最後尾の車両の扉は開いていた。扉の前にある階段の横に、いつも立っているはずの車掌の姿はない。
 アサは砂に足をとられながら走り、階段を駆け上がって列車に倒れ込む。自分の腕で顔がこすれ、顔の皮がさらに剥がれる。顔を右手で押さえながら身体を起こすが、髪の毛が頭の形のまま床に落ちた。
 後ろで扉が閉まる音がした。列車は一度揺れてから、速度を上げていく。アサは立ち上がって窓の外を見るが、窓に車内の灯りが反射してよく見えない。
 いつもアサが座っていた海側の席に、黒い乗車券が置かれていた。その横に一枚の絵が添えてあった。ヨルが初めて描いたアサの絵だ。アサは乗車券を座席の隙間に挟み、絵だけ手に取って席から離れ、海側の扉の前に立つ。これまで開いたことがない扉だ。扉のガラスに顔を近づけると、暗闇を通した窓は鏡のようにアサの姿を映し出した。
 ただれた顔の皮膚が落ち、シミの多いたるんだ皮膚が現れる。長い茶色の巻き毛が落ちた後の頭には、白く短い巻き毛が残っていた。そこには老いた女の顔が映っていた。見慣れた、自分の顔だ。
 海の中に白い光がいくつも見える。光は規則的に並んでいて、徐々に数が増えていく。アサは窓に手を添える。しわが波打つ痩せた手だ。
 次はこちらの扉が開く。アサは窓に映る自分と目を合わせた。

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小説投稿サイト「エブリスタ」で連載中の「夜の案内者」の転載投稿です。
完結までお付き合いありがとうございました!

▼夜の案内者(エブリスタ)
https://estar.jp/novels/25491597/viewer?page=1

人生で初めて長編小説を終わりまで書き切ることができました!
読んでくださった方、シェアしてくださった方々のおかげです。
2作目はちょっと進歩した作品が書けるようにまた頑張っていきますので、今後も見守ってやってくださいませ!!


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