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上海の猫のいるバーで泣いていた女性と話した「愛情をつくる方法」の話


あと3話くらい書けたら1冊分になるので、電子書籍にまとめた時に一部のおはなしを特典的に公開したいため、有料化(100円)しています。
こちらのお話はその特典用です。

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 上海での滞在先の近くに、猫のいるバーがあった。ポーカーやダーツなどのゲームができるバーで、プレイ中に白黒の猫がボードの上に乗ってくる。よくルールの分からないポーカーで早々に負けると、私はちょっと離れたソファに沈みながらコーラを飲み始める。一緒に来たアーティストたちが笑いながらプレイをつづけていた。

 お酒を飲まないのでバーに来ることもほとんどないのだが、今日は猫がいると言われて見に来た。英語が苦手なこともあり、大勢で話すのはちょっと苦手だ。いつも会話についていけないから。

 片手にグラスを持った女性が二階に上がってくる。長いまつ毛に大きな目、ストレートの金髪が美しい女性だ。彼女は私の向かいのソファに座り、ローテーブルにグラスを置く。
「ハーイ」
「ハーイ」
 近くに座ってるので軽く挨拶する。彼女は長い足を組み、膝に手を乗せる。視線はテーブルに落ちたままで、考えごとをしているのだろうか。じっと見ているのもおかしいので、私はほとんど氷だけになったコーラを口にして目を反らす。

 少しして、私は彼女が声を立てずに泣いているのに気づいた。目から涙がまっすぐ落ち、彼女の黒いワンピースの上に染みを作っている。それでも彼女は涙を拭うことなく、流れるままにしている。私は氷に夢中なフリをして、横目で彼女の様子を伺うが、明らかに涙の量は増え、鼻をすする回数が増えている。
 私はグラスを置き、持ってきたカバンからポケットティッシュを出して彼女の近くに置く。彼女は黙ったまま頭を下げ、ティッシュで涙と鼻を拭った。声が、たぶんすぐに出ないのだろう。

 私は彼女を置いて席を立つ。一人でいたい時もあるだろう。しかし、立ち上がったところでティッシュを返された。
「これ、ありがとう」
 彼女の声は震えてもいなかった。泣いていたとはとても思えない。
「差し上げますよ」
「いいの、大丈夫。ありがとう」
 私が差し出されたティッシュを受け取り、立ったままカバンの中にしまっていると、彼女はまた声をかけてきた。
「ごめんなさいね、びっくりしたでしょう」
「いいえ。もう大丈夫ですか?」
「うん。ねぇ、ちょっとだけ話さない?」
 そう言われると断りにくい。私は近くの丸椅子を引っ張ってきて彼女の斜め横に座る。話そうと言われても私には話題がないので、彼女が話し始めるのを静かに待つ。

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