「成熟してるというのは責任を取ろうとする態度じゃないか」の話
未熟なのと成熟なのって、どう違うんだろう。果物だとなんか見た目で分かる。青々して固い感じか、ちょっとやわらかくて熟れた匂いがしているとかだ。
デンマークのコペンハーゲンにあるアートコレクターさんの自宅に話を聞きに来ていた。誰かより優っているとか誰かより劣っているとか、本当は考えたくないのに、優ろうとして頑張りすぎたり、劣っていると思って落ち込んだり。私たちは老人が出してくれた紅茶とクッキーを味わいながら、優劣についての話をしいていた。
どうしたら優劣の考え方から抜け出せるんだろうって思ってたら、コレクターさんが言った。
「世の中にあるのは、未熟と成熟だけで、優劣じゃないんじゃないかと思っている。未熟なものが劣っているわけじゃないし、成熟してるものが優ってるわけでもない」
私はテーブルのクッキーを食べながら、成熟ってどういう状態だろうと考えていた。もういい大人だから、成熟してないといけないんだろうな。未熟なままでいたかったけど。
クッキーが口の水分を持っていって、喉が渇いてくる。出された紅茶はすでに飲み干していた。
老人がトレーを持って席を立つ。
「お代わりを淹れてくるよ、紅茶でいいかな?」
私はうなずく。老人が持ってきてくれるものはいつも美味しい。口の中のクッキーがきれいになくなる頃、老人がフルーツティーをトレーに乗せて戻ってきた。小さなアート作品がいっぱい飾られている部屋で、時刻の合っていない時計が時を刻む音が聞こえている。
「成熟ってどういうことなんだろうなって考えてたんですけど」
ガラスのポットに入ったフルーツティーから、果物の香りがする紅茶が注がれる。私は老人からカップを受け取ってまずは紅茶の香りを楽しむ。カップは青い花柄の模様が入ったロイヤルコペンハーゲンだ。
「未熟が劣ってて成熟が優っているわけではないとして、でも、成熟ってどういうことなんだろうなって」
自分は未熟なんだろうか。それとも成熟してるんだろうか。それは、年齢では分けられないような気がする。いつまでも子供だなぁって思う時はどういう時なんだろう。態度? 考え方?
「私は、責任が取れるかどうかじゃないかと考えているよ」
ソファに座って自分の分の紅茶を手に取ると、老人は言った。
「責任が取れるかどうか?」
「そう。小さい子が悪いことをした時、責任を取るのは親じゃないか? 親には子供を育てた責任がある。大人になったら、その責任は自分で取るようになるだろう?」
「確かに」
「責任を取ろうとする態度が、未熟と成熟を分けるんじゃないかと私は考えているよ」
私はうなずきながら、クッキーを手に取って食べながら紅茶を飲む。口の中でクッキーがシャリシャリしながら湿っていっておいしい。
「なにか失敗しちゃった時に、自分の責任だって思えるかどうか、ですかね」
「そうだね。誰かのせいだと言いたくなってしまうようなら未熟かもしれない。ほら、大きな会社だと、社長が全社員分の責任を負うわけだろう?」
「そうですね」
「成熟にも度合いがあって、人の分まで責任を取れるか、その人数の多さが成熟の強さを表しているんじゃないかな。成熟の強さ、うーん。なんかいい言い回しがあるといいけど」
「いや、分かります」
自分の仕事の責任を取ってくれる人が上にいるだけで、すごく伸び伸び仕事ができる気がする。責任っていうのは、心理的な安心感を誰かに与えてくれるものなのかもしれない。
「そういう意味では、私はまだ、自分の仕事の責任で精いっぱいかも」
「はは、それで十分じゃないか。まずは自分自身の面倒をみられるようになれば」
そうですね、と言いながら私は、もしも意識的に責任の範囲を広げられるようになったら、仕事の内容や幅も変わってくるのだろうか、と考えていた。
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