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いつまでも外見に呪われてる

肌のアラは隠さなくちゃいけない。眉毛は左右対称に書いて、眉マスカラをして。アイシャドウは濃くなりすぎないように。涙袋はしっかりと。まつ毛は長くてふさふさで、上向きであるべきで、アイラインも不自然にならない程度に。ハイライトやシェーディングも忘れちゃいけない。マスク生活でもリップは塗るのだ。

ああ、いつまでこんなことしなくちゃならないんだろう。正解って、どこにあるんだろう。

そんなことをずっと思ってる。

もしも私が億万長者だったなら、ある程度の好みだけは伝えた上で、私に似合う髪型もメイクも服も、毎日全部プロにお任せするのにな。小さい頃からずっと想像してる。誰かが提示してくれた正解。私に1番似合うものを教えてくれよ。


物心ついた頃からアトピーだった。
真っ赤で匂いのきつい薬を塗っていたから真っ赤なシャツばかり着ていた小学校低学年。「赤い服しか持ってないの?」と言われたことがあった。ぐじゅぐじゅの腕にはガーゼを貼った上からネット包帯を着けていて、人の目が気になった。体操服の半袖半パンから覗く、隠しようのない肌のこと。プールの授業。紺のブレザーの肩に落ちる剥がれ落ちた皮膚。惨めだった。

まずい漢方だって昔から何度も飲んだし、病院にもたくさん行った。よく分からない肌に良い商品や食事も色々試した。それでも幼稚園を除いた全ての卒業写真に写る私は、まぶたを赤く腫らして、首がガサガサな姿だった。

アトピーって本当に悲惨で、気が狂いそうなくらい痒いのに、当たり前だけど掻いたら肌がボロボロになる。いくら我慢しようとしても、眠っている間に掻きむしって、翌朝泣きたくなるほど惨めになる。手を後ろに縛って眠ったこともあったし、手袋を付けて手首をぐるぐる巻きにして眠ったこともあった。皮が剥がれ落ちて何度もコロコロをかけた。ぐじゅぐじゅになった肌は独特の匂いがする。掻いたらすっきりして、すぐに後悔して。

高校時代にアトピーがいっとう酷かったとき、Yahoo知恵袋なんかも見たけれど、pixivのタグ検索で「アトピー」と調べたことがあった。同じ経験を持つ人の言葉が読みたい気分だった。もちろん目当てのそういう作品も見つかったけれど、余計なものも見つかった。キャプションには「アトピーって性的で良いと思うけどな」みたいに書かれた女性でアトピー肌らしい人間の絵。めちゃくちゃ虚しくなった。死にたいくらいの悩みを「性的かどうか」の意味不明な判断基準で良しとされて、しかもその絵が女性だったので、頭がくらくらした。現実に見て、本当にそんなことが言えたんだろうか。描かれた人と、現実の肌の遠さを思った。


いつまで経っても外見至上主義の世界だ。やってらんないくらい。
全世界の人類の視力が無くなってしまえば良かった。犬は私が化粧をしていてもすっぴんでも、髪をセットしても服を着替えても同じ態度でいてくれるのにな。なんでこんな、顔に塗るものの色で悩みに悩んで、一喜一憂しなくちゃいけないんだ。

髪は茶色の方が良かっただろうか。短くて大丈夫だろうか。服装は変じゃないか?メイクの色は浮いていないか?ずっと誰かの目を気にしてる。アトピーがなぜか落ち着いている今もずっと。肌があの頃よりは普通になって、なのにもっと贅沢になる。私はどうしたら、もっとマシに見えるんだろうか。
メイクを始めたきっかけは、SNSで出来た年上の友人たちとライブで会うためだった。少しでもマシに、オタクに見えないように、変じゃないように。恥ずかしくないように。周りの目を気にせず歩ける姿であるために。

母はさぞ苦労しただろう。アトピー肌な娘を持って。これは父からの遺伝だ。そして両親は遺伝することを知らなかった。
私は生涯子どもを産まないだろう。高確率で遺伝すると分かっていて、外見が重視されるこの世界に生まれて、ありがとうなんて言えない。ごめんねとしか言えないから。

化粧品を見ていたんだよ。消費期限が危ういものばかりで半分くらい断捨離したから、少し買い揃えようかと思って。でもなんだか疲れてしまった。世間の目を気にして選ぶのは楽しくない。イエベもブルベも骨格も、知ったこっちゃないって言いたい。好きな色と好きなものを身につければいい!って。分かってるのにな。

ずっと気になるのだ、人の目が。隠しきれない死にたさが。内向的な性格が。捻くれた考えも、全部。きょうだいも私と同じだったり、私より酷かったりしながら同じような道を歩いてきた。性格の嫌な部分がかなり似ている。昔から抱え続ける劣等感。私たち、いつまで外見に呪われるんだろうね。インターネットがいくら発達したって、捨てられないこの体。

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