【セミナーレポート】ドキュメンテーション最前線
5/14(金)に開催したオンラインセミナーのレポートをお届けします!
ゲストとしてお迎えした茶々保育園グループさん、まちの保育園・こども園さんはドキュメンテーションを園の重要な柱として位置づけ、保育の質向上・人材育成・保護者との信頼関係の構築・園の文化の醸成など、さまざまな場面で役立てていらっしゃいます。
今回はそれぞれの園でのドキュメンテーションのあり方や実践のポイントについて、たっぷりご紹介いただきました!ドキュメンテーションに興味がある、始めてみたいという園さん必見です。
※こちらからセミナー動画をご覧いただけます。
【事例紹介:茶々保育園グループ】プロセス志向の茶々式ドキュメンテーション (4分35秒〜)
「Education is Empathy よりよく理解しあうことで、世界は変わる。」というビジョンを掲げる茶々保育園グループ。園の理念を実現する手段として、ドキュメンテーションに取り組まれています。
・茶々式ドキュメンテーション
茶々保育園グループの大きな特徴は「茶々式ドキュメンテーション」という独自のドキュメンテーションスタイルをもっていることです。茶々式ドキュメンテーションは①ドキュメンテーション → ②9マスのドキュメンテーション → ③コンセプトドキュメンテーションの3ステップで構成されています。
① ドキュメンテーション:日々の活動や子どもたちの言葉、作品など子どもの日常を「ドキュメンテーション」として記録。
② 9マスのドキュメンテーション:①から育ちや学びの連続性をとらえてまとめたもの。9個のマスが設定されたドキュメンテーションシートを活用し、活動の流れにそって子どもの育ちを可視化。
③ コンセプトドキュメンテーション:②から発展させ、園のコンセプト(未来を見据えた視点)と関連づけて再編集したもの。
茶々保育園グループさんでは、観察→記録→省察というサイクルを大切にしています。「ドキュメンテーションを作ることが目的になってはいけない。ドキュメンテーションを活用するサイクルこそが重要であり、このサイクルを充実させることではじめて未来につなげることができる」と茶々だいかんやま保育園の最上先生は強調されました。
・ドキュメンテーションからの学び
最後に、茶々いまい保育園の三山先生から、実際の保育エピソードについてご紹介いただきました。
1回目の緊急事態が発令された昨年のことです。ちょうど花をテーマにした活動していた茶々いまい保育園では、近所の方に晴れやかになってもらうため、自分たちが植えた花とともに花の絵を外に飾ったそうです。
近所の方から「元気をもらった」などたくさん声をかけてもらったそうで、三山先生は子どもたちが社会との接点をもつことができ、社会に暮らす市民としての一歩を踏み出したように感じたそうです。年度末には、「人は花を育て、花もまた人を育てる」というタイトルでドキュメンテーションをまとめました。
「ドキュメンテーションによって日々の活動を可視化することは、保育者と保護者が子どもの成長を共有することにつながる」という三山先生。今後は保護者、地域とのつながりをより深め、子どもたちが未来を担う社会の一員として育っていけるように、より一層豊かな活動を展開していきたいとお話されました。
・まとめ
茶々保育園グループでは、地域の方とのコミュニケーションも大切にしており、エントランスや保育園に併設された「ちゃちゃカフェ」にドキュメンテーションを掲示しているそうです。CEOの迫田氏は、「20年後を創る。」という園のミッションを達成するための第一歩としてドキュメンテーションに取り組み、保育の重要性を社会に知ってもらうことで、幼児教育・保育にかかわるすべての人の地位を向上していきたい、としめくくりました。
【事例紹介:まちの保育園・まちの研究所】ドキュメンテーションー 園の文化をつくる物語りー (30分49秒〜)
・「ドキュメンテーションの8の字」
まちの保育園さんは、「ドキュメンテーションの8の字」と名づけたアプローチで、ドキュメンテーションを通した「保育の充実」と「コミュニティの充実」を図っています。
「8の字」の上の輪が「保育の充実」、下の輪が「コミュニティの充実」を表しています。輪は「子ども理解」から始まります。保育者が子どもの姿を観て聴いて解釈(意味づけ)し、記録を作成して他者と共有・対話をすることで、さまざまな視点から子どもの姿をとらえ、子どもへの理解を深めていきます。その体験を通して、保育者同士・家庭と園・地域社会と園・子ども同士の絆を深め、コミュニティを充実させていく。それがまた保育の充実につながる。という好循環を生み出しているといいます。
・実際の取り組み
まちの保育園・こども園さんでは、ドキュメンテーションに決まったフォーマットはなく、それぞれの先生が自由にデザインして作っているそうです。
作成したドキュメンテーションは園内に掲示したり、データ化して家庭に配布したりしています。また小竹向原園はカフェを併設しており、そこにドキュメンテーションを掲示し、地域の方にも見てもらえるようにしているそうです。
・いろいろな主観を集める
保育士・アトリエリスタとして活躍する齊川先生は、「ドキュメンテーションを作成することが目的ではなく、そこから対話や物語を生み出すことが重要だ」と語ります。まちの保育園では、職員や保護者との間での対話の場を積極的に設けています。ドキュメンテーションを真ん中にして対話をすることで、いろいろな人の主観を集め、さまざまな視点で子どもたちの姿や保育を見つめることを大切にしているそうです。
さまざまな保育観や子ども観を聞くことで、保育に対する新たな視点を得ることができ、それが保育の楽しさやこども理解を深めることにつながる、と齊川先生。子どもを見つめる視点、また保育のあり方について「正解はひとつではない」と知ることで、自分自身の保育に自信が生まれ、自分の保育スタイルを確立することにも役立つと語りました。
ドキュメンテーションに取り組むにあたっては、もちろん悩みや課題もあるそうです。
ひとつは「時間がない」ということ。忙しいなかで新たにドキュメンテーションに取り組むのは簡単なことではありません。しかし保育を振り返り、子ども理解を深めるためのドキュメンテーションは、最も重要な業務のひとつであると捉えています。さまざまある保育業務のなかで子どもの育ちに本当に必要なことは何か、園が大切にしているのは何かなど、改めて考えながら業務を見直していく必要があると齊川先生は語りました。業務のICT化や、書類の簡素化なども重要なポイントだということでした。
齊川先生は最後に、レッジョ・エミリア・アプローチでよく語られる「ラウラと時計」というエピソードを紹介してくれました。
ラウラさんという生後8ヶ月の女の子が、雑誌にのっている時計の写真を眺めていました。それを見た保育者が、ラウラさんに自分がしている腕時計を見せ、チクタクという音を聞かせました。するとラウラさんは雑誌の時計に耳をあてた、というエピソードです。生後8ヶ月にして保育者がつけていた時計と雑誌の時計が同じものと認識している可能性を示したこのドキュメンテーションは、子どもがいかに力をもっているかということを世界に知らしめました。もしこのドキュメンテーションがなければ、多くの大人が「子どもは未熟な存在だ」と決めつけていたかもしれません。
齊川先生はこの物語を知って、「ドキュメンテーション1枚で社会を変えることができる」と確信したそうです。そして、ドキュメンテーションの未来にあるものは、保育士の地位向上だと語ります。
「保育の重要性を社会に認知してもらうためには、保育者自身がしっかりと発信する必要がある。子どもを見つめ、育ちを支えるプロとして、子どもの姿を社会に発信し続けることが、よりよい保育、そして保育に対する社会の見方が変わることにつながる」と締めくくりました。
先生が作りたくなるドキュメンテーション:株式会社スマートエデュケーション(58分33秒〜)
「茶々さんやまちの保育園さんのドキュメンテーションへの取り組みは大変素晴らしく、大いに参考にすべきだが、真似しようとするのではなく、あくまで自園の物語にあったかたちで取り入れるべき」だ、とスマートエデュケーション代表の池谷は語ります。
スマートエデュケーションは、1回目の緊急事態宣言のタイミングで動画配信サービス「おうちえん」を立ち上げました。緊急事態宣言後にサービスを終了する予定でしたが、子どもの成長の過程を共有する手段、保育の可視化の手段として動画を使いたいという園の声が多く、サービスを継続することを決めました。
さらに神戸大学 北野幸子准教授と、「ICTとドキュメンテーション活用」についての共同研究を開始。より手軽に、スマートに取り組める新しいドキュメンテーションのかたちを提案すべく「おうちえんドキュメンテーション」を開発しました。
「おうちえんドキュメンテーション」には、以下のようなメリットがあります。
・写真や動画を入れることで、短い文章でも多くの情報を伝えることができる。
・保護者も先生も、いつでもどこでも記録を見ることができるので、効率的に情報共有ができる。
・コメント機能を使用して、保護者が感想や家庭での様子を伝えることができる。
「おうちえんドキュメンテーション」は保育の可視化と共有をより効率化するためのツールとして開発されました。素敵なドキュメンテーションが簡単に作ることができ、どこでも気軽に見られるので、学びのサイクルがはやいというのが最大の特徴です。
おうちえんドキュメンテーション開発者の二フュユスは、「まずは無理なく、できるところから始めてほしい」と語りました。
保育ドキュメンテーションがもたらす経営価値:株式会社カタグルマ(1時間13分26秒〜)
園マネジメント支援クラウドを提供する株式会社カタグルマ代表の大嶽氏からは、経営視点からのドキュメンテーションの価値についてお話いただきました。
地域・保護者から選ばれる園になるためには、子どもを通して保護者にもさまざまな日常を体験してもらい、園に愛着・信頼(エンゲージメント)を感じてもらうことが重要だそうです。
ドキュメンテーションを通して保育者や保護者が子どもの成長のストーリーを知り、想像したり、対話をしたりすることで園の世界観が作られます。それが園のブランド力を高めることにつながる、と大嶽氏は語りました。
茶々保育園グループ・まちの保育園の事例を聴いて、「保育をクリエイティブにする力がドキュメンテーションにはある」と実感したという大嶽氏。経営視点で考えても、ドキュメンテーションには大きな価値があるので、さまざまな課題はあるがぜひ挑戦してほしい、としめくくりました。
パネルディスカッション(1時間24分〜)
最後に、登壇者全員でのパネルディスカッションを行いました。ここでは抜粋・要約してご紹介します(発言者の敬称略)
Q:ドキュメンテーションを介して対話をすることが重要だということがよくわかりましたが、経験年数などに差がある保育者同士がフラットに話し合えるような雰囲気をどうやって作り出していますか?
(茶々保育園グループ:迫田)フラットに話し合うための大前提として、まずは理念を共有することを大切にしています。理念を書いた言葉を壁に貼って終わりではなく、当グループでは、採用から日々の活動にいたるまで、理念がすべての判断基準となります。大切なのは経験年数ではなく、理念に対する理解度だという文化が根づいていれば、フラットに話し合えるのではないかと思います。
(まちの保育園:齊川)当園でも園の理念を意識しているのはもちろんのこと、お互いの呼び方や話し方など、小さな工夫でフラットな関係をつくることができるのではないかと思っています。職員会議以外にも小さな対話の時間を数多く設けたり、外部講師を呼んでワークショップなどを行っています。そういったなかで和気あいあいとした雰囲気が作られているのではないかと思います。
(株式会社カタグルマ:大嶽)毎日10分対話の時間を設けて、子どもの様子や変化を話し合うなどの工夫をされている園さんもあります。時間がないなどの課題はあるかと思いますが、園それぞれのやり方で少しずつでも進めてもらえるとよいかと思います。
Q:ドキュメンテーションに取り組むことで、園児数や保護者満足度の増加、離職率の低下など実質的な効果を感じていますか。
(茶々保育園グループ:迫田)どの取組がどの数値に影響を与えているかはわかりませんが、ここ々数年で離職率は低下しています。ドキュメンテーションそのものというよりは「するべきことをして、すべきでないことはやめる」という方針が働きやすい文化を作っているのではないかと思います。少子化が進み、園が淘汰される時代になっていくなかで、ドキュメンテーションにいちはやく取り組んでいることは、園児募集の点においても大きなメリットになるのではないかとは感じでいます。
(茶々保育園グループ:最上)子どもをテーマにコミュニケーションをとることは、本来、保育者にとってはとても心地よいものたど思います。そういう心地よさを実感できるような風土、雰囲気作りのなかにドキュメンテーションがあるのではないかと思います。それが離職率の低下などにつながっていたらいいな、と思っています。
(まちの保育園:齊川)以前、園長から私のクラスは保護者からのクレームが一切ないといわれたことがあります。これまでいろいろなクラスを担任しましたが、「私達はこんな風に子どもを見ています」ということをドキュメンテーションで発信することで、保護者の信頼感を得ることができたのではないかと思っています。
まとめ
最後に池谷から、参加者に向けて次のようなメッセージがありました。
「園長先生・理事長先生にドキュメンテーションについて紹介すると、『内容をチェックしなくてはいけない』ということをよく言われます。それでは現場の先生方は萎縮してしまいます。子どもたちの一番近くにいるのは、保育者である先生方です。そこを最も尊重する組織にしなければ、ドキュメンテーションを通して保育の質を高めるというようなことは難しいのではないでしょうか。園の理念を共有したうえで、先生方に自由に動いてもらうことが大切だと思います。先生方はクリエイターです。個性と能力を生かすために、園のリーダーである園長先生・理事長先生は最大限の配慮をしてほしいと思っています」
次回予告
次回のセミナーは、5/26(金)16:00~18:00 「どうする!?園児募集」です。ふるってご参加ください!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?