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【セミナーレポート】園児はどんな社会に旅立つの?

8/28(金)に開催したオンラインセミナーのレポートをお届けします!

2019年12月に文部科学省が発表した「GIGAスクール構想」。小学校以降の教育にICTが本格導入されるなか、保育・幼児教育にも進化が求められています。今回のセミナーは、先進的な取り組みで脚光を浴びている小学校の先生2名をお招きし、ICT教育の実践事例についてお伺いしながら、園の先生方とともに、未来の保育・幼児教育について考えました。

事前にご紹介した先生方のほか、
東京都福生市 聖愛幼稚園 野口哲也園長
埼玉県吉川市 コビープリスクールよしかわみなみ 三鍋明人園長

もパネラーとして、参加してくださいました。

はじめに・・・
セミナーでは、ICT教育の先駆けである2校の事例をご紹介いただきました。現時点では「特別な小学校」という印象を受けますが、これらの小学校で起きていることは、1、2年のうちに、どの小学校でも当たり前のように見られるようになります。
今回は、ICT教育に取り組む小学校の立場から、幼稚園や保育園の活動に対する具体的なアドバイスをいただくことができました。園の先生方にとっては、既存の幼児教育を見直す良い機会となったのではないかと思います。また最後に総括をしてくださった東京大学大学院 山内教授からは「まずはやってみることが大切」とのメッセージがありました。
ぜひセミナーの様子をご覧いただき、変革への一歩を踏み出していただけたら幸いです。

※こちらからセミナー動画をご覧いただけます。

【事例紹介】 Challenge your mind. Change our future.--京都府 立命館小学校 教頭 六車陽一先生

立命館小学校は2006年の開学当初から、歴史・文化・芸術が身近にある京都という土地性、また海外とのネットワークや素晴らしい学校施設を存分に生かし、「豊かな学力を育てる教育」・「真の国際人を育てる教育」・「豊かな感性を育む教育」・「高い倫理観と自立心を養う教育」という4つの柱に基づいた教育を実践しています。

特にユニークな取り組みが、1年生から6年生までの縦割りグループでさまざまな活動を行う「ハウスシステム」です。学年を超えて交流することで、思いやりの心と豊かな人間関係を育むことをねらいとしています。

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●ICTへの取り組み

立命館小学校は開校当初からICT教育に取り組み、かなり早い段階から、デジタル端末の「1人1台」環境を導入しています。2018年に策定した2030年に向けての学園ビジョン、”Challenge your mind. Change our future"を実現するためには、ICTは絶対になくてはならないものであるとし、ICTを使った学びを進化させ続けています。

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低学年では楽しみながらプログラミングの考え方やスキルを身につけ、中学年以降は1人1台所有するタブレットPCを使って、各教科での学びを深めているそうです。また5・6年生の算数ではAI型教材を導入し、一人ひとりの理解度に合わせた学習内容を提供するアダブティブ・ラーニングを組み込んでいます。タブレットPCは毎日自宅に持ち帰り、その日の学習を振り返ることができるようにしているとのことでした。

また各教科での学びをパワーポイントでスライドにまとめて発表するなど、Officeソフトの操作方法やプレゼンテーションの技術もしっかりと学んでいます。

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ロボティクス科の授業では、1年生から4年生までがレゴを使用したロボット作りとロボットプログラミングを行っています。5年生以降を対象とした「ロボット部」は、世界大会にも出場したそうです。

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六車先生は「ICT教育のねらいは、デジタル端末やプログラミング言語を使いこなすスキルを身につけることではなく、それらを道具として活用し、新しいものを生み出す力をつけることだ」と語ります。

技術の進化は非常に速いので、特定のデジタル機器やプログラミング言語に習熟したとしても、その技術はすぐに陳腐化してしまう可能性があります。しかし、例えばデジタル機器を使って仲間とコラボレーションしながら新しい発想を生み出す力や、効果的に情報発信する力は陳腐化することはありません。これからの時代を生きる子どもたちに本当に必要なのは、どんな力なのか。ICTがあるからこそ伸ばすことができる力は、何なのか。立命館小学校は、子どもたちの未来に真摯に向き合い、新しい教育に挑戦し続けています。

●コロナ禍でのオンライン授業

コロナによる休校期間中は、次のようなアプリケーションを使って、オンライン授業を進めていたそうです。

・Microsoft Teams:各教科で取り組む課題などのやり取り。
・Classting:連絡帳ツール。保護者とのコミュニケーションに活用。
・Zoom:クラスみんなで顔を合わせ、朝の会や帰りの会を実施。
・YouTube:録画した授業を配信。

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休校期間中最も大切にしたのは、学びを止めないこと、そして子どもたちの心をケアすることだったという六車先生。医療機関に勤務する保護者も多いため、家庭の負担とならないよう、あえてライブ授業ではなく、録画授業をYouTubeで配信し、いつでも、どこでも、何度でも学べるようにしたとのことでした。

●パネリストからの質問(抜粋)

Q:1週間の時間割の中で、英語やICTの授業に多くの時間を割かれていますが、学習指導要領との整合性はどのようにとっているのでしょうか。

A:当校は文部科学省の教育課程特例校の認定を受けているため、英語・ICTに関しては自由度の高いカリキュラムを組むことができています。他の教科に関しては、学習指導要領の内容に則って実施しています。

Q:休校期間中は、ICTが得意ではない先生もオンライン授業に取り組まなければならなかったと思います。どのようにして前向きに取り組んでもらったのでしょうか?

A:コロナ禍では、先生方が一丸となって「子どもたちの学びを止めないぞ!」という思いを持ったことが追い風となり、みんなで助け合おうという雰囲気が自然と生まれました。登校には専属のシステムエンジニアが常駐しているほか、ICT教育部という専門組織もあるため、現場の先生方には教材づくりや、家庭・子どもたちとのコミュニケーションに専念してもらうことができました。

【事例紹介】 挑戦--埼玉県 さとえ学園小学校 カリキュラム・マネージャー 山中昭岳先生

さとえ学園小学校は、体験と思考を一体化した「体験型教育」を大きな特徴としています。五感を鍛え、自然と仲良くなるためのルールを身体で覚えていきます。

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さとえ学園の教育が素晴らしいのは、体験して終わりではなく、そこから生み出される疑問や課題、気づきを体系的に整理し、仲間と共有することで、新たな気づきや学びへつなげるという学習デザインが確立されていることにあります。

低学年から「ベン図」や「Xチャート」などのシンキングツールを活用し、比較・分類・関連付けなどの「考えるスキル」を身につけていきます。

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体験と思考が一体化した学びを繰り返すことで、問題を解決する力だけではなく、自ら問題を発見する力を身につけることを目指しているそうです。

●ICT教育の取り組み

さとえ学園小学校は、全学年を対象に1人1台のiPadを整備する「さとえ型iPadプロジェクト」を2018年にスタートしました。子どもを主体としたこのプロジェクトでは、iPad活用のスローガンも子どもたちが考えました。それがこちらです。

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保護者にはiPadの導入目的を「学力向上」と伝えているという山中先生。その裏には日本のICT活用の現状に対する強い危機意識があります。国立教育政策研究所が公開しているPISA2018調査結果を見ると、OECD加盟国で、「日本はゲームにデジタル機器を活用する国、第1位」であると同時に、「もっとも学習にICTを利用しない国、第1位」という結果となっています。山中先生は、「『日本のICT活用の光を学習へ』という強い思いを持って、ICT教育に取り組んでいる」と語りました。

さとえ学園小学校では先に述べた「体験型学習」にICTを組み合わせることで、子どもたちの体験をより豊かな学びへとつなげています。

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子どもたちの自律と主体性を大切にしているさとえ学園小学校では、iPadとの付き合い方も子どもたち自身が自分で考え、身につけていきます。そのサポートとして、テストに合格するとより自由にiPadを使える制度を設けているそうです。

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子どもたちにとって、iPadは学びのための「道具」。作詞・作曲、プログラミング、英語学習、生徒会活動など、「さとえ型iPadプロジェクトの活動は多岐にわたります。デジタルとアナログを融合した豊かな体験がとても印象的でした。

●パネリストからの質問

Q:子どもたちはiPadを家に持ち帰って使用しているということですが、インターネット環境のない家庭については、どのようにサポートしているのでしょうか?

A:配布しているiPadはセルラーモデルなので、家庭にWi-Fi環境がなくても使用することはできます。ただ、動画などはスムーズに見ることができない場合もあるので、休校期間中のオンライン授業実施にあたっては、Wi-Fiの整備をお願いするなどしました。

Q:自然体験を非常に大切にされていて、幼保の教育と通じるものを感じました。小学校で自然体験を重視することの教育的な意義を、どのように保護者に伝えているのでしょうか。

A:当校は体験型教育・複合型教育を大きな特徴としています。自然教育もするし、ICT教育もするし、中学受験にも対応するというハイブリッドな教育に魅力を感じて、当校を選んでくださる保護者が多いくいらっしゃいます。ですから、小学校における自然体験の意義についても、しっかりと理解していただいてるのではないかと思います。

参加者からの質疑応答

セミナーを視聴してくださっている参加者の皆さんからも、いろいろなご質問をいただきました。

Q:幼稚園や保育園で一生懸命にICT教育をしても、小学校がICTを導入しない限り、園での経験が無駄になってしまうのではないかという不安があります。

A:(六車先生)立命館学園では、小学校が最もICT化が進んでいますが、中学校に進学して小学校での経験が無駄になるかというと、そんなことはありません。小学校では、ICTを活用して自ら学んでいく力を身につけさせています。学校にICT環境がなくても、家庭学習において役立つと確信しています。

(山中先生)ICTは今後、小学校以降の学校教育に確実に導入されていきます。「学校の先生がICTを使いこなせないのでは?」という心配があるかもしれませんが、子どものICTスキルが高ければ何の問題もありません。先生との役割が逆転してしまっても良いのではないかと思います。まずは幼稚園や保育園でどんどんICTを活用していただき、ゲームではなく「学習のため」のICTに光を当てていってほしいと思います。

(野口園長)ICT教育の目的を園でどう設定するかによって、小学生以降のICTの使い方が変わっていくのではないかと思います。当園では、「iPadはゲームやYouTubeを見るだけのものではなくて、いろいろなことを調べたり、学んだり、いろいろなものを作ったりするための便利な道具なんだよ」ということを伝えています。幼少期の知識や体験は、子どもたちがICTとどう付き合っていくのかの土台になっていくのではないでしょうか。

Q:ICTを導入するにあたって、職員にはどのようなスキルが求められるのでしょうか?

A:(徳本園長)スキルを求めるというよりは、 ICT難しいものではなく、便利で面白いものなんだよ、ということに気づいてもらうことが大切だと思います。

(野口園長)現場の先生は普段からスマホを使っているので、iPadの操作などには問題ないと思うのですが、Wi-Fiに不具合などがあったりすると、対応が難しいので、システムサポートできるメンバーが園の中にいると、心強いかもしれません。

(三鍋園長)なんのためにiPadを使うのか、という目的意識が大切だと思います。目標を明確にしてみんなで協力してやっていくことが、前向きに取り組む秘訣ではないでしょうか。

(山中先生)当校では情報の取り扱い方やセキュリティについての研修は、かなりしっかりと行いました。写真や個人情報などに対するセキュリティ意識は大切だと思います。

Q:小学校でICT教育を行うあたって、幼稚園や保育園では、どのようなマナー、どのような力が身についていたらいいなと思いますか。

A:(六車先生)「情報モラル」という言葉がありますが、ICTだからといって特別なことはなく、どんな場面でも通じるマナーや思いやりを身につけていることが大切ではないかと思います。

(山中先生)小学校で子どもたちがどんどん活用していけるように、幼稚園や保育園では、とにかくどっぷりと、ICTに親しんでほしいなと思います。

Q:ICT教育の今後について、国の具体的な姿勢がなかなか見えてきません。ICT教育を発展させるために、幼稚園や保育園から自治体などにどうアプローチをしていけばよいのでしょうか。

A:(山中先生)小中学校では、今後、確実に1人1台の端末を使用するようになります。国としてICT教育をどこまで低年齢化させていくのかという判断は、私たちの活動ににかかっています。幼稚園や保育園でICTをどんどん活用していただき、低年齢の子どもたちでもICTを十分使いこなすことができること、楽しくて学習に役に立つものだということを、世の中にアピールしてきたいと思っています。ICT=ゲームではなく、ICT=学習に役立つものという認識を、日本で広めていきたいです。

【総括】4つのメッセージ--東京大学大学院 情報学環 山内教授

最後に今日の話を総括し、山内先生から園の先生方に向けて、4つのメッセージをいただきました。

① より高度な教育へ

立命館小学校やさとえ学園小学校のような事例が出てきたのは、社会が複雑化し、より高度な教育が求められるようになってきたからです。ICT教育の目標を自ら考え、見つけ出すことが大切です。

② 園の教育全体の位置付け

園の教育において、ICTをどのような位置付けにするのか、そこをしっかりと説明できることが重要です。ICTをなぜ利用するのかを明確にしてから、カリキュラムに落とし込むようにしましょう。

③ まずは自分から始める

今日の話を聞き、「すごいな」という感想で終わらせないことが重要です。子どもの主体性を育みたいのであれば、大人が主体的にならなければなりません。

④ 動きの中で考える

動きながら、実践しながら知恵を生み出す時代です。ぜひまずは自分でiPadを触ってみて、実験しながら考え、その面白さを子どもたちに伝えてみてください。

まとめ

立命館小学校、さとえ学園小学校の挑戦は、園の先生方にとって非常に大きな刺激となったのではないでしょうか。「もっとも学習にICTを利用しない国、第1位」。この汚名を返上し、今日聞いたような学びの形が当たり前になるような、そんな時代が早く来るといいなと思いました。

ICTの可能性は無限大です。実体験が重要な幼少期の教育でこそ、デジタルに閉じない面白い活用方法が生まれるのではないかと思います。スマートエデュケーションも、園の先生方と一緒に未来の保育に挑戦していきます。是非、一緒に頑張りましょう!

次回のオンラインセミナーもぜひお楽しみに!

(文・大澤香織)

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