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韓国フェミニストたちの今(1)

カンユ・ガラム(映画「私たちは毎日毎日」監督)&キム・へジョン(韓国性暴力相談所所長)インタビュー

ヘッダー写真:映画「私たちは毎日毎日」の出演者キラさんがペットとともに「かくつき」(牛を闘わせる競技)に反対する様子。
韓国フェミニズムのなかには多様な世代(1980年代の民主化運動世代、1990年代のヨン・フェミニスト、そして今の20代)がいる。とりわけ、韓国の民主化以降、自由な雰囲気で活動してきた、90年代のヨン・フェミ世代は、今日のフェミニズムの大衆化についてどのように見ているのか?『ハッシュタグだけじゃ始まらない――東アジアのフェミニズム・ムーブメント』(大月書店)に紹介されている韓国フェミニズムの現場をさらに経験できる映画を紹介したい。そして、90年代ヨン・フェミ世代の映画監督と最先端の活動家に取材し、二人の経験、二人の目から見た韓国フェミニズムの歴史と近年の動向について話してもらった。

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聞き手金美珍(大東文化大学准教授)
翻訳:ジョン・ユソン

カンユガラム

カンユ・ガラム(映画監督)
梨花女子大学校大学院女性学科卒業。2009年頃からドキュメンタリーを制作。主な作品として、「プレゼント」(2010年)、基地村問題を撮った「梨泰院」(2016年)、「時局フェミ」(2017年)など、女性の生や空間に関するドキュメンタリーを主に制作。

キム所長

キム・へジョン(韓国性暴力相談所所長)
韓国でのMeToo運動、刑法上強姦罪の改正など主要な活動を主導したひとり。ヨン・フェミ(Young Feminists)世代。カンユ・ガラム監督の映画「私たちは毎日毎日」に専業活動家として出演。

――カンユ・ガラム監督の映画「私たちは毎日毎日(우리는매일매일)」は、「韓国でフェミニストとして生きるとは何か」という考えから始まった映画だと聞きました。簡単に映画の紹介をお願いします。

カンユ・ガラム(以下、カン):この映画は、私が大学生時代(2000年前後)に出会ったフェミニストたち、つまり私が憧れて影響を受けた人たちの活動を記録したいという思いから始まった映画です。当時韓国で「ヨン・フェミニスト(Young Feminists)」と呼ばれていた彼女たちの活動が、その後の韓国社会に一定の影響を及ぼしたと思っているのですが、その記録があまり残っていないことから始めました。映画の制作を考えはじめた2014年頃は、私自身がフェミニストとしてどう生きていくべきかという問題に直面したときでもありました。

当初は、1990年代や2000年代初めに有名だったフェミニストや、よく知られていた事件を中心に記録しようとしたのですが、途中で方針を変えました。私のように当時はフェミニズム運動を仕事にしていなかった人たち、当時からフェミニズムと関連する仕事をしていた人、今も活動を続ける人など、対象を幅広く映画に捉えることにしました。

最初は専業の活動家でない人たちを中心に取材し、撮影したのですが、2018年に#MeToo運動が韓国でも爆発的に起きたので、女性活動家の想いも覗いてみたいと思い、韓国性暴力相談所のキム・へジョン所長の活動も追っていきました。それを通じて、女性運動の様々な歴史的瞬間が自然に映画のなかに映るようになったと思います。

私がヨン・フェミニスト世代の活動を振り返ろうと思ったのは、2016年以降の韓国におけるフェミニズムの大衆化と関連があります。私は30歳ぐらいになってから映画をつくりはじめたのですが、2016〜17年頃、韓国映画界でハッシュタグ運動のようなものが起こりました。私はフェミニストとして生きてきたにもかかわらず、同じ職域で起きていたことについて、あまりに無知だったことに気づき、あのとき自分自身をすごく振り返るようになりました。

私たちヨン・フェミニスト世代のみんなは、こうしたフェミニズムの爆発的な広がりを担っている若い世代を目にして、どんなことを思っているのだろう。私のように困惑を感じているだろうか。1990年代の自由で解放的だった瞬間を一緒に味わっていた友人たちに、今どう過ごしているのかを聞きたくなったんです。悩みを相談するような感じで。それで、私たちより先立っていた先輩たちに尋ねるというよりは、90年代の自由で解放的だったその瞬間を味わっていた私の友人たちは今のこの時期をどう過ごしているか、ということを撮りたくなりました。

映画 「私たちは毎日毎日」 ポスター 

映画「私たちは毎日毎日」ポスター

――韓国フェミニズムのなかには多様な世代(1980年代の民主化運動世代、1990年代のヨン・フェミニスト、そして今の20代)がいるわけですが、韓国フェミニストの「世代」についてどのように見ていますか?

キム・へジョン(以下、キム):私が1990年代に見たフェミニストのオンニ(お姉さん)たちはすごくかっこよくて、私もああいうふうに生きていこうと思うほどでした。最もかっこいい生き方、先進的で進歩的な議論、大学であらゆる授業、あらゆる学問、あらゆる知性と議論を批判する新たな言語というふうに、あのヨン・フェミの時代を受け入れています。

それとは対照的に、今の世代はフェミニズムを「生存問題」として受けとめていると思います。「フェミニズムでなきゃ、私たちはどう生き残るか」。こんなに自分自身の存在を抹殺して、安全を脅かし、日常を危険にさらす状況で、恋愛すること、夜道を歩くこと、どこかで用を足すこと、学校で教育を受けること、インターネット生活を楽しむこと、これらすべてが脅威にさらされ、脅迫され、スティグマを貼られて、いつ流布されるかわからないなかで、フェミニズムじゃなきゃ私たちは生きていけないという切迫感によってフェミニズムが大衆化したと思います。

――お二人がフェミニズムへの認識をもって活動するようになったのは2000年頃だと思いますが、その後、韓国のフェミニズムはどのように変わってきたと思いますか?

カン:私は2000年代初頭、「オンニ・ネットワーク」という、DaumやNaver(注:日本でいうとYahoo!)のようなポータルサイトの女性主義バージョンを運営する団体の編集チームに入って活動をしてみたり、実際フェミニズム・キャンプにも行ったりしていました。

これまでの経験を、通時的というより、印象に残ったものを中心に考えてみます。1990年代末にヨン・フェミニスト運動は大学を中心に波及力があったのですが、90年代末にIMF(経済危機)事態が韓国社会を襲ってから、大学の文化や雰囲気が急激に変わったと思います。2000年代半ばになってからは学生運動(私が経験していたものも)やサークル文化が大きく衰退して、フェミニズム運動も大学内で衰退していく過程があったと思います。

それとは対照的に、むしろ女性運動は、制度化において発展してきた感じがあります。大学内運動は、私が思うに2005〜06年あたりにはけっこう衰退していましたが、社会的に見れば戸主制廃止などがあって、ある意味では成果が多いように見える、一種の錯覚のなかで数年間を過ごしたと思います。ですが、実際に文化的な面などでは大きな変化がないまま流れていったように思います。その後、#MeToo運動などが出てきたことを考えれば、社会での性文化がどれだけ変わったのかについて、疑問をもたざるをえない状況でした。

そのなかで、フェミニズムの大衆化を通してすごく多くの若い女性たちが覚醒して、また社会を変える動力になっている。今の10代、20代女性たちの覚醒は、ほとんど希望のような力ではないかと思っています。

もっとも、私の経験は個人の認識程度のことで、団体生活を長くやってきたキム・へジョン所長の経験とは異なるかもしれませんね。

金へジョン所長活動写真④

キム・ヘジョン所長は最近、韓国の反性暴力運動の歴史を紹介する講義を多くおこなっている。

キム:私も、制度化の影響は大きいと思います。1980年代に韓国の民主化運動があって、民主化以降、女性運動が80年代の民主化運動から分化しはじめていきます。90年代に入り、94年に性暴力特別法、97年にDV法、99年・2000年代に児童青少年性保護法、2004年に性売買特別法、こんな法律が相次いでつくられたのです。制度化の裏には予算確保があるので、それを中心に活動が続いてきたんですね。こうした制度化のなかでフェミニズムを持続する人々は、女性に対する暴力の分野で、国家の補助を受ける形で運動を進める女性団体が多くなったと思います。

1997年のIMF危機以降、女性の非正規職化が深刻になりました。また、韓国はデジタル強国だとよく言われるのですが、インターネットでの無制限的な女性嫌悪文化が生じてきました。そのなかで、すでに制度化されていた女性運動が、女性に対する暴力の分野でさらに専門化が進み、細分化されていきます。こうした状況のなかで、女性運動全体の生態系が均衡を失って、多様な領域のなかで活動する女性運動の多様性が確保できなくなったと思います。また、既存の制度化された女性運動は国会に多く進出するためでもありますが、この進出が結局、何人かのエリート女性たちを送り込んで、彼女らがまた国会でゲットー化されてしまったのではないかという評価も現れました。

そのなかで、女性たちがどんどん非正規職化していくし、青少年時代に平等に教育を受けて過ごしてもミソジニーの前で絶望するし……。こんな人々がいま弾けてきたのが、「フェミニズム・リブート」、または#MeToo運動です。労働現場も条件があまりにも劣悪なので、法律があっても解決できない問題などが弾けてきたのが、#MeTooとフェミニズム・リブートだと思います。

(つづく)

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