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入門篇(3)

田野大輔(コーナン大学)

いざホームセンターへ!

木取り図ができたら、いよいよ材料の買い出しである。ホームセンターに行き、木材を選んで会計を済ませたら、そのままカットサービスの受付まで運んで、木取り図に従ってカットを依頼する。15分〜30分程度はかかるので、その間に木材以外の材料を買っておく。

必ず入手しなければならないのは、①木ネジと②木工用ボンドである。①木ネジはネジ頭が平らで先端の尖った木工用のネジ(ビス)で、棚板を側板に直角に留めるのに用いる。様々な形状・材質・長さ・太さのものが販売されていて、どれを買ったらいいか迷うところだが、木材に食い込みやすい「コーススレッド」と呼ばれるネジのうち、木材同士をぴったり接合するのに適した「半ネジ」タイプ(全体の半分ほどにしかネジ山が切られていないもの)を選ぼう。ネジの太さは3mm〜4mm程度、長さは側板の厚みの2倍を超える程度(側板がワンバイ材なら45mm程度、ツーバイ材なら75mm程度)を目安にする。大量のネジが必要になるので、200本入りの徳用箱を買うとよい。

②木工用ボンドは木材の接合面に塗って強度を高めるのに用いる。木ネジで留めるだけで十分だと思うかもしれないが、「イモ継ぎ」と呼ばれる単純な接合方法(棚板の木口を側板の平面に突き合わせて留める方法)の場合、木ネジの力は棚板を横に引っ張る方向にしか働かないので、本を載せたときに棚板にかかる縦の力を支えるには、側板にボンドでしっかり接着されていなければならない。木工用ボンドも様々なタイプのものが販売されているが、接着後に硬化してヤスリがけが可能になるフランクリンの「タイトボンド」がオススメである。容量が500ml程度のものを買っておけば十分だろう。

このほかにホームセンターで買っておくと便利なのは、木材を接合する際に動かないよう固定するための工具(クランプ)、室内作業時に部屋を養生するのに使うブルーシートや布マスカーテープである。

電動ドライバーは必需品

ところで、本棚の組み立てに入る前にぜひとも入手しておきたいのが、電動ドライバーである。手回しのドライバーでもネジを締めることはできるが、本棚の組み立てともなると何十本ものネジ(棚板1枚につき4本×棚板の枚数)を締めることになるので、作業を快適かつ効率よく進めるためには、多少出費がかさんでも購入したほうがよい。ネット通販で探せば、コード式の電動ドライバーなら3,000円程度から、充電式のインパクトドライバーでも10,000円程度から購入できる。最初の1台には、穴あけにもネジ締めにも使える「ドリルドライバー」と呼ばれるタイプのものがオススメである。どんなタイプでも「ビット」と呼ばれる部品を先端に装着して回転させる仕組みになっているので、本体を購入したらドライバービット(プラスの2番)とドリルビット(太さが3mm〜4mm程度のもの)も一緒に買っておこう。

初めて電動ドライバーを使ってみると、これまでの苦労は何だったのかと驚くはずである。イケアの家具を組み立てるだけで丸一日かかったというような苦い経験は、手回しのドライバーを使ったせいだろう。電動ドライバーならネジを締めるのはあっという間で、ネジに強い力を加える必要もないので、作業時間の短縮と疲労の軽減につながること請け合いである。最初に買ったドリルドライバーを使っているうちに、だんだんとパワー不足を感じるようになるかもしれないが、そうなったらもう少し強力なインパクトドライバーを買い足し、ドリルドライバーはドリル専用にすればよい。2台あればビット交換の手間が省けるので、さらに作業効率が上がるだろう。


ケガキと下穴あけのコツ

さて、カット済みの木材を家に持ち帰ったら、最初にやる必要があるのは、設計図に従って側板に棚板を取り付ける位置を書き込むこと、いわゆる「ケガキ」の作業である。メジャーで寸法を測って印を付け、シャープペンシルで線を引いていくのだが、これを精確かつ効率よく行うには、『清く正しい本棚の作り方』で紹介されている次の手順を踏むのがベストである。まず、側板を2枚並べて両者が接するところで採寸し、双方の板に印を付ける。次に、側板の位置を入れ替えて、双方の印が上下の両端に来るようにする。そして最後に、長い定規か棚板などの木材を使って、2つの印を結ぶように線を引く。側板が2枚以上ある場合は、入れ替えの際に3枚目以降の側板を印付きの2枚の側板で挟むようにすればよい。

要は採寸を一度だけにして、それをもとにすべての側板にまとめてケガキ線を引くことで、誤差が発生するのを避けるわけである。1枚の側板の両端に別々に印を付けて線を引き、同じ作業を側板の枚数だけ繰り返すというやり方だと、時間がかかるだけでなく誤差も生じやすくなる。精確なケガキ線が引けるかどうかは本棚の出来を左右することになるので、ここは集中して作業してほしい。また、この段階になるとどの板をどんな向きで組み立てるかが確定するので、側板と棚板の木口に組み立て時の前後左右の位置を示す目印を書いておくといいだろう。

すべての側板の表裏双方に線を引いたら、側板にネジで棚板を留めるための「下穴」をあける。側板の両面にはすでに棚板を取り付ける位置を示す2本線が棚の数だけ引かれているので、棚板を取り付けるのとは反対側の面に引かれた2本線の真ん中、側板の両端からそれぞれ30mm〜40mm程度の2箇所に印を付け、ネジの太さと同程度(3mm〜4mm)の穴をあける。穴をあける際、勢い余って床に穴をあけないようにすること。これを防ぐには、余った木材や棚板などを下に敷いて、側板を床から浮かせる必要がある。

組み立ては1時間もかからない

残るは最終工程の組み立てである。「イモ継ぎ」の場合、棚板の木口に木工用ボンドを塗り、側板に直角に突き合わせて反対側からネジで留めるだけの単純な作業なのだが、これを精確に行うには、木材をしっかり固定することに留意する必要がある。棚板を側板に突き合わせた後、手で押さえるだけでネジを打ち込むと、ネジにかかる力で接合部がズレてしまうので、できればT字接合に適したコーナークランプを使って、棚板と側板が動かないよう固定してからネジで留めるべきである。ネジを奥まで打ち込むと接合部から木工用ボンドがはみ出すので、事前に用意した濡れ雑巾で拭き取ること。

組み立てにあたっては、できるだけ広い場所を確保し、木材を寝かせた状態で作業することが望ましい。室内で作業するのであれば、ブルーシートや布マスカーテープで部屋を養生する必要がある。木屑が出るので掃除が面倒だが、落ち着いて作業する環境を確保したい。ラブリコやディアウォールの突っ張り金具を使う場合、側板を立てて天井に固定してから棚板を順に取り付けていく人が多いようだが、このやり方では精確な接合を行うことは難しい。作業の手順としては、片方の側板に棚板を1枚ずつ順に取り付け、棚板の反対側の木口すべてに木工用ボンドを塗ってから、もう片方の側板をかぶせて一気にネジを留めていくというやり方がいいだろう。横倒しの状態で上から垂直にネジを打ち込むようにすると、精確かつ効率よく作業を進めることができる。初めて本棚を組み立てる人は手こずるかもしれないが、慣れてくれば組み立て自体は1時間もかからない。

これでひとまず本棚の完成である。さっそく設置場所に運んで壁や天井に固定したら、まずは完成した作品を見上げて達成感に浸ろう。棚板の強度が心配だとか、ネジ頭が見えているのが気になるとか、塗装して格好良く見せたいとか思うようであれば、さらに一手間かければよい(その方法は後述する)。以上のような必要最小限の作業を行うだけで、基本的な用途を十分に満たす本棚を手にすることができる。うまく作る自信がない人も心配は無用である。かくいう筆者も以前は木工未経験者で、電動ドライバーすら持っていなかったから安心してほしい。

繰り返すが、イケアの家具が組み立てられるなら、誰でも簡単に本棚を作ることができる。特別な技術も才能も不要である。うまく作るコツはただ3つ、①ケガキ線を精確に引く、②適切な道具を用意する、③クランプで木材を固定する、これだけである。自分は不器用だからなどと物怖じせず、思い切って挑戦してもらいたい。

著者近影

(たの だいすけ)1970年生まれ。甲南大学文学部教授。専攻は歴史社会学。著書『ファシズムの教室――なぜ集団は暴走するのか』(大月書店)、『愛と欲望のナチズム』(講談社選書メチエ)、『魅惑する帝国――政治の美学化とナチズム』(名古屋大学出版会)ほか。
ウェブサイト
Twitter:@tanosensei

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