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僕らと命のプレリュード 第31話
特部に保護されて以降、海奈と花琳は毎日のように特部の手伝いをして生活していた。
しかし、一度……司令室のモニターで、自分達と歳が変わらない銀髪の男子が、1人で高次元生物の相手をしているのを見た時、海奈の心にある思いが芽生え始めた。
(俺も……戦うことで、ここにいる人達の力になりたい)
海奈には分かっていた。自分達がしてる雑用は誰にでもできることであり
、自分達の肩身が狭くならないように、千秋が気を遣って与えてくれた仕事なのだと。いつまでも、そんな状態でいるのは嫌だった。
モニターで見ていた戦闘が終わった時、海奈は傍らの花琳に尋ねた。
「姉さん、あたし達も……彼みたいに、戦えないかな?」
海奈の言葉に、花琳は力強く頷く。
「海奈、私も同じことを考えてた」
花琳にそう言われ、海奈は覚悟を決めて頷く。
「姉さん、戦おう。強くなって……ここにいる人達の、力になろう」
こうして、意思の決まった2人は相談し、琴森に頼んで訓練をつけてもらうことになったのだ。
筋力トレーニング、アビリティを使った戦闘訓練、体力を鍛えるための走り込み……様々な訓練をこなし続けて、数ヶ月後。2人は、千秋に課された、VRでの仮想戦闘試験に挑むことになった。
2人は、普段隊員が訓練で使うものと同じ、ヘッドホンの形をした『感覚同期装置』を頭に着けた。この装置は、VRによる仮想戦闘で発生した視覚・聴覚・痛覚の変化を実際に体感するための装置である。
2人が装置を着けた瞬間、目の前が天ヶ原町の住宅街の景色に変わり、眼前に燃え盛る長髪と岩石の体を持った人型の高次元生物が現れた。
この高次元生物には、花琳の『植物』の力は相性が悪いものの、海奈の『水』の力は効果的だ。
千秋は、仲間の不利を補えるチームワークがあるのかを見ている。海奈には、それがすぐに分かった。
「姉さん」
海奈は、相性の不利に気づいて不安げな顔をする花琳を真っ直ぐに見つめ、声をかけた。
「2人で勝とう」
花琳は、その言葉にしっかりと頷き、高次元生物に向かい合った。
「私が海奈をサポートする!海奈は相手を攻撃して!!」
そう叫び、花琳が大地を踏みしめると、高次元生物の足元から太い蔦が生えてきた。
「絡んで……!」
高次元生物の身体を花琳の蔦が縛る。それを確認するや否や、海奈は、敵の眼前に突っ込んだ。
(あたしの『激流』でこいつの首を貰う……!)
しかし、海奈が『激流』を放とうと構えた次の瞬間、高次元生物の身体が勢いよく燃え盛ったのだ。
「なっ……!?」
海奈はギリギリで立ち止まったが、高次元生物の炎による熱風に巻き込まれ、顔を庇った腕に火傷と同じ痛みが走った。
「あっつ……」
海奈が怯んでいる間もなく、高次元生物は燃える身体で彼女に迫る。
赤い炎を纏った拳が海奈に襲いかかったその様子を、部屋の外のモニターで見ていた琴森は、訓練装置を停止させようとしてキーボードに手を伸ばした。しかし、千秋がそれを手で制する。
「しかし、このままでは……!」
「大丈夫だ。よく見ろ」
「え……?」
琴森は千秋に促されて再度モニターを見て、目を丸くした。
「海奈から離れて!『木の葉』!!」
海奈に炎の拳が炸裂する直前、花琳の放った鋭利な木の葉が、高次元生物の両目に刺さったのだ。
高次元生物は痛みのあまり、ふらつきながら後ろに後ずさる。
「海奈、今よ!」
花琳の声に、海奈は頷き手を前に構えた。
「喰らえ……!『激流』!!」
次の瞬間、海奈の放った激しい水流が、高次元生物の岩の首を削り落とした。
髪の炎が消火され、ただの岩石と化した高次元生物の首がゴトリと落ちる。その音とも、に海奈はその場にへたりこんでしまった。
「か、勝った……?」
「海奈……!」
へたりこんでいる海奈の元に、花琳が駆け寄り、その肩を支えた。
「海奈、大丈夫?」
「姉さん……」
まだ放心状態なのか、海奈は頷くことすらままならない。そんな彼女を花琳が不安げに見ていると、訓練施設のドアが開いて千秋と琴森が入ってきた。
「2人とも、装置を外してくれ」
千秋の声が聞こえて、2人は感覚同期装置を外す。すると、周りの景色が訓練施設に戻り、部屋に入ってきた千秋と目が合った。
千秋は2人を見ると、優しい顔で微笑む。
「花琳。土壇場で『木の葉』を放った君の判断力と命中力、見事だった。海奈、君の力も素晴らしいものだった。あの固い身体を持つ高次元生物の首を落とす程の『激流』の威力……他に類を見ないだろう」
千秋はそう言うと、2人に向かって両手を差し伸べた。
「君達を、正式に隊員として迎える。2人とも。これからは隊員として、よろしく頼むぞ」
花琳と海奈は、覚悟を決めた顔で頷き、千秋の手をしっかりと握った。
「はい……!」
千秋の手を取り立ち上がった海奈の瞳は、彼に認めて貰えた喜びで、僅かに潤んでいた。
(その後、仲間も増えて、賑やかになって……ずっと言えずにいた、トランスジェンダーのことも打ち明けられた。みんな、そんな俺でも認めてくれて……やっと、前に進めたんだ)
海奈はそこまで思い返して、目を伏せる。
(なのに……母さんは、今になって何で俺に電話なんてしてきたんだ?もう俺は、あの家に戻るつもりなんて、ないのに……)
母のことを考えてしまい、海奈が憂鬱になってしまっている時だった。
『山梨県美鶴市で高次元生物が発生しました!隊員は直ちに出動してください!』
真崎さんのアナウンスが入った瞬間、海奈は固まってしまった。
美鶴市は……海奈と花琳の、故郷だったからだ。
「……海奈、大丈夫よ。私がついてる」
花琳は静かにそう言うと、海奈の手を握った。
「姉さん……」
今、待機している隊員は海奈と花琳だけ。自分が行くしかないのだと、海奈は覚悟を決めて頷いた。
「……うん。姉さん、行こう」
俺は花琳の手を離し、彼女の前を走ってワープルームへと向かった。
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