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僕らと命のプレリュード 第4話

 4人が報告のために総隊長室に向かうと、そこでは夏実が千秋と言い合いをしていた。必死の形相で迫る夏実に対して、千秋は表情を変えない。

「何で2人を特部に入れたの!?能力の希少性?それとも……」

「夏実姉ちゃん!?」

「聖夜、柊……!」

 夏実は2人を見つけるやいなや駆け寄った。

「怪我してない?大丈夫!?」

「大丈夫!」

「大丈夫だよ。だから、落ち着いて?」

「っ……よかった、無事で」

 2人の言葉を聞いて、夏実は胸をなで下ろした。

「夏実姉ちゃんこそ、大丈夫?」

 聖夜が心配すると、夏実は首を横に振った。

「2人とも、家に帰ろう」

「……?そうするつもりだけど……」

 聖夜が戸惑うと、後ろに居た千秋が言った。

「特部は全寮制だ。教育もこちらで行うから高校進学は辞退して貰うことになる。……それを否定する意味で、夏実は帰ろうって言ってるんだ」

「あ……」

「……当然。強引に2人を連れて来て任務まで参加させたみたいだけど、これ以上危険な目には合わせられない」

 夏実は千秋を睨んだ。しかし、千秋は涼しい顔のままだ。その表情からは、僅かな動揺すら感じられない。

「……ならこうしよう。今晩だけ時間をやる。だから2人に、入隊するか否かを決めてもらってくれ。それなら文句は無いだろう?」

「……分かった」

 夏実は頷き、2人促した。

「聖夜、柊、帰るよ」

「う、うん……」

 まだピリピリとした様子の夏実に戸惑いながらも、聖夜と柊は帰路についた。

* * *

 2人は家に着くなり夏実に尋ねた。

「どうしてそんなに止めるんだ?」

「それだけじゃなくて、どうして私達を特部から遠ざけてたの?」

「……ちゃんと話すから、座って」

 夏実に促されて2人はリビングの椅子に座った。夏実もまた、双子の向かい側に座り、2人のことを真っ直ぐ見つめて口を開く。

「少し昔の話になるけど、聞いてくれる?」

 2人は黙って頷いた。

「……昔ね、私も特部に所属していたの。でも、親友を任務で亡くしてしまって」

 夏実は唇を噛み、やがて、自分が学んできた現実を、2人に告げる。

「2人とも、人は簡単に死ぬの。その人がどんなに大切でも。明日も一緒だって信じていても……。特部のように日常的に戦うのなら尚のこと……ね」

 2人をしっかりと見据えて、夏実は続けた。

「だから、2人を特部にだけは入隊させたくなかった。そのためにお母さんにも協力してもらって、2人の記憶を『操作』していたの。お母さんのアビリティでね。それから、2人に極力特部の情報を与えないように注意もした。でも……2人は特部に連れて行かれた」

 そこまで言うと、夏実はその整った顔を悲しそうに歪めた。

「夏実姉ちゃん……」

「……私は、2人が選んだ道なら何も言わない。でも、今日は普段と訳が違う。いつもよりも、よく考えて……明日の朝、答えを聞かせて欲しい」

 夏実はそう言って自室へ戻ってしまった。

「……柊は、どう思う?」

 聖夜は傍らに居た柊に問いかけた。

「私は、夏実姉さんの気持ち分かる。今日、成り行きでも任務に出て……倒れて、死ぬかもって思ったし、聖夜や翔太君が居なかったらほんとに……」

 そこまで言うと柊は黙りこんだ。

「……俺も、翔太が居なかったら大怪我をしてた」

 聖夜は静かに頷いた。

「でも、俺は特部に入ろうと思う。それで助けられる人が居るなら、俺はその人達のために頑張りたい。柊はどう思う?」

「……うん。私もそう思う。お母さんも、誰かのために頑張れる人になりなさいって言ってたし、特部でなら、それが叶う気がする。……それにさ」

 柊は聖夜に笑いかけた。

「2人なら大丈夫だよ」

 聖夜も柊に微笑んで頷いた。

「……うん。2人で頑張ろうな!」

 双子は笑いあって、お互いに決意を固めたのだった。

* * *

 翌朝、聖夜と柊は、まとめた荷物を持ちながら玄関に立っていた。

「本当に行っちゃうのね、2人とも……」

 夏実の母が寂しそうに言った。

「おばさん……俺達、頑張ってくるから」

 聖夜の言葉に、夏実の母は静かに頷く。

「分かってるわ。応援してるからね」

 彼女は2人を、優しく抱き締めた。

「聖夜、柊……」

 夏実は2人に歩み寄った。

「いつでも帰ってきていいから。……無理だけはしないで」

 夏実はそう言って2人の頭を撫でる。その表情は、心配そうに歪んでいた。

「夏実姉さん……」

「……夏実姉ちゃん、俺達、2人で頑張ってくるから。絶対、死なないって約束する」

 夏実を安心させようと、聖夜は力強く言った。

「……うん。信じて応援してるからね」

 夏実は、聖夜の気持ちに応えようと、無理矢理笑顔を作る。

「いってらっしゃい」

「いってきます!」

「いってきます」

 双子が乗った車が見えなくなると、夏実は空を見上げた。春めいた穏やかな青空が、視界いっぱいに広がっている。夏実はその空を見上げながら、少し寂しそうに微笑んだ。

「……私も前、見なくちゃね」

* * *

 2人が特部の正面玄関に到着すると、そこには千秋の他に、昨日出会った仲間達が待っていた。

「ようこそ、特部へ」

 千秋はそう言って微笑んだ。


5話(続き)

1話


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