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僕らと命のプレリュード 第64話

「聖夜っ……聖夜!!」

 自分の名前を呼ぶ声が聞こえて、聖夜が目を開けると、そこは中学校の屋上だった。柊が泣きながら聖夜の顔を覗き込んでおり、彼女の涙で、聖夜の頬が濡れている。

「……柊」

「聖夜……!よかった……」

 聖夜が起き上がると、他の仲間達も聖夜を囲んで安心した表情を浮かべていた。

「聖夜君……無事でよかった」

「もう……心配したのよ?」

「俺も焦ったぜ!」

「こ、これで一安心だね……」

「全く……お前は本当に無茶をする」

「みんな……心配かけてごめん」

 聖夜は仲間達に微笑み、傍らのノエルを見た。ノエルも聖夜同様に、仲間達に囲まれている。

「みんな……」

「ノエル!!良かった……無事で、本当に良かった……!」

 安心して涙目になるウォンリィを、他の仲間達が微笑みながら見ていた。

「……大丈夫だから。泣くな、ウォンリィ」

 ノエルはそう言って体を起こすと、聖夜の方を見た。丁度2人の目が合う。

「ノエル……」

「……僕の負けだ」

 ノエルはそう言って立ち上がり、聖夜に歩み寄った。聖夜も同様に、ノエルに向かって歩いて行く。

「……君の言葉、信じる」

「ノエル……!」

「守ってよ。僕達からこの時代を守ったように……僕達の時代も守って」

 ノエルはそう言って、微笑んだ。

「うん!もちろんだ!」

 聖夜もノエルに笑顔を見せ、右手を差し出した。

「じゃあ、仲直りの握手だ!」

「え?仲直り……?」

 戸惑うノエルの右手を、聖夜はしっかりと握る。

「次会うときはさ、平和な未来を想う仲間、だな!」

「仲間……僕と、聖夜が……?」

「うん!」

 聖夜に屈託のない笑顔を向けられて、ノエルは顔を赤くした。

「……なんか、照れるな」

「嫌か……?」

「……ううん。悪くない」

 ノエルはそう言って微笑む。そうしていると、屋上に千秋達も現れた。

「……聖夜、みんな」

「総隊長!」

「無事に任務を果たしたようだな」

 千秋はそう言って微笑む。しかし、すぐに真面目な顔に戻ってノエル達を見た。

「君達のしたことは、決して許されることじゃない」

「……そう、だよね……」

 ノエル達の表情が曇る。

「……死刑でもなんでも……どんな罰でも受けるよ」

 ノエルは覚悟を決めて、千秋を見つめた。しかし、千秋は優しく微笑んで続ける。

「……生きなさい」

「え……?」

「高次元生物によって命を落とした人達の分も、生きなさい。罪と向き合って……生き抜いて……決して投げ出さず、その人生を全うするんだ。それが、君達の使命だ」

 千秋の穏やかな声色に、ノエル達は言葉を失う。それに対して微笑みながら、千秋は言葉を続けた。

「私達も前を向く。亡くなった人達の分も、生き抜いてみせる。聖夜、そうだろう?」

 千秋に尋ねられ、聖夜はしっかりと頷いた。

「はい!……俺達は、今を生きる。幸せな未来のために……前を向いて今を積み重ねる!だから!」

 聖夜はノエルに明るい笑顔を見せた。

「だから……未来で待っててくれ!」

「聖夜っ……!」

 ノエルの目から涙が零れ落ちる。

「……分かった。待ってるから。未来で、待ってるから……!」

 そう言って、ノエルは泣きながら笑った。

 そうしてノエルと聖夜が笑い合っていると、なんと空から屋上に向かってタイムマシンが降りてきたのだ。

「私が送っていく。乗りなさい」

 窓が開いて、明日人が顔を出す。それを見て、ウォンリィ達がタイムマシンに乗り込んでいく。

「……聖夜」

 ノエルはタイムマシンの前で、聖夜に振り返った。

「君達の未来が、光に満ちたものになりますように」

「……うん。絶対、そうしてみせる!」

 ノエルは聖夜に穏やかな笑顔を見せ、タイムマシンに乗り込んだ。

「……タイムマシン、発進!」

 明日人の掛け声で、タイムマシンが宙に浮く。しばらくして、タイムマシンは七色の光に包まれ……姿を消した。

「……行っちゃったね」

「ああ……そうだな」

 聖夜と柊は、タイムマシンが去って行った空を見上げた。

「……2人とも、感傷に浸ってる場合じゃないぞ」
 
 それを見た千秋が、微笑みながら隊員達に告げる。

「これから町の復興作業だ。みんな、町のために、もう少し頑張ってくれ」

「了解!」

 聖夜達は元気よく返事をした。

(明るい未来のために、今を生きよう。前を向いて、進み続けるんだ)

「行こう、柊!」

「あ、ちょっと!待ってよ!」

 聖夜は微笑みながら、屋上から駆け出した。

* * *

 明日人が運転するタイムマシンの中は、静まり返っていた。

 あの薄暗い未来へ戻る……そう思うだけで、ノエル達の心が絶望で埋め尽くされる。

(怖い……けど、聖夜達を信じるんだ。きっと未来を変えてくれる……)

「もうすぐ着くぞ」

 明日人の言葉でノエルは窓を見た。すると、そこに広がっていたのは……。

「……あれは」

 ノエルの故郷に咲く、向日葵畑だった。

「すごい!街が見える!!」

 エリスの声につられて前方を見ると、そこには戦争で破壊されたはずの建物が存在していた。

「……ここに駐めよう」

 明日人は向日葵畑の入口にタイムマシンを駐めた。エリスが元気よくタイムマシンを降り、向日葵畑へ駆け出していく。

 それに続くように、ウォンリィ、イグニ、アリーシャもタイムマシンから降りていった。

 皆を見送り、ノエルは1人ゆっくりと地面に降り立つ。懐かしい景色に、自然と涙が零れ落ちた。

「本当に……変えてくれたんだ。最悪な未来を……変えてくれた……」

 ノエルは涙を流しながら、遠い過去の仲間を思い、空を見上げた。爽やかな夏空が、どこまでも広がっている。

(聖夜……ありがとう……)

 ノエルは涙を拭い、空に向かって微笑んだ。


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