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僕らと命のプレリュード 第18話

 真崎のアナウンスに従って、柊、海奈、深也の3人は天ヶ原駅前に駆けつけた。駅前の様子は明らかにおかしく、黒い霧が漂い、昼にも関わらず薄暗い。

「なんだこれ……」

『高次元生物の影響だと思われます』

 深也の呟きに、真崎が答えた。それに対して、今度は海奈が問いかける。

「その高次元生物はどこに?」

『高次元生物は影のような形態をしているとのことです。恐らく、その薄暗い中に紛れているのかと』

「なら、まずは本体をおびき出さないとね」

 柊の言葉に、真崎は頷いて続けた。

『はい。……通報によると、何人か影に飲み込まれた人が居たとのことです。注意して下さい!』

「りょーかい……」

 気怠げに返事をした深也は、腰のポーチから拳銃を取り出した。

「……高次元生物、どこに居るんだろうね」

 深也の言葉に対して、海奈は辺りを見渡しながら曖昧に返す。

「さあ……辺りが暗くてよく分からないな……」

 その様子を見た深也もまた、周辺を注意深く見渡す。すると、ロータリーにある、照明が切られた街灯が目に入った。それを見て、深也はふと思いつく。

「そもそも影なら、辺りを明るくすれば出てくるのでは……?」

「それだ!」

 突然の海奈の大声に、深也はびくりと体をすくめた。

「深也、ナイスアイディアだよ」

 そう言って明るく笑う海奈に、深也は目を伏せ頬を赤らめる。

「や、役に立ててなにより……」

 柊は、その深也の様子を見て目を輝かせた。

(……もしかして、もしかする?)

 その柊をよそに、海奈は真崎に通信する。

「真崎さん、周辺を明るくすることってできますか?」

『はい!……連絡して、街灯や駅の照明をつけてもらいますね』

「お願いします」

 真崎との通信が途切れて、すぐ。駅の照明や街灯が一斉に点灯した。先程に比べて、駅周辺がずっと明るくなる。

「ミィィィ!」

 その明るさに目を覆いながら、黒く、人型をした高次元生物が現れた。

「あれが本体か……」

 深也はすぐに高次元生物へ向けて発砲した。

「ミィ!」

 高次元生物が頭を抱えてしゃがみ込むと、前方に霧が現れた。弾丸は霧の中で失速し、そのまま地面に落ちる。

「……どうなってんだ、あの霧は」

 深也は舌打ちして、拳銃をポーチにしまい、代わりに、折り畳み式のナイフを取り出した。
ナイフを一振りして刃を出し、高次元生物を睨む。柊は深也のナイフを見て、物珍しそうに口を開いた。

「すごい……色々持ってるんだね」

「ああ……僕のアビリティは攻撃向きじゃないから」

 それだけ言うと、深也の姿が『消えた』。

「え!?し、深也君、どこ!?」

 驚く柊に、深也は声だけで答える。

「これが僕のアビリティ、『透明化』。自分とその周囲のものの姿を消すことができるんだ。……それはそうと、至近距離からの方が良いかもしれない」

 その声に海奈も頷く。

「そうだな。……あたしと柊で隙を作る」

 そう言うと海奈は高次元生物に向き直った。高次元生物は攻撃が通らないことが分かったのか、ニヤニヤとした顔で躍りながらこちらを見ていた。

「……今に見てろよ」

 高次元生物を睨んでから、海奈は柊に視線を送った。

「行こう、柊」

「うん!」

 2人は高次元生物に向かって駆け出した。

「食らえ!『渦潮』!」

 海奈が腕を振るうと、高次元生物の周囲に水の渦が生まれた。駅の2階にも到達しそうなほど、大きな渦潮。その激しい渦に、高次元生物は閉じ込められる。

「ミィィィ!?」

 高次元生物はそれに驚き、立ち尽くした。

「『遅延』!」

 柊の声に合わせて高次元生物が空色の光に包まれた。その声で、柊が『遅延』を掛けたことを確認した海奈は、渦潮を解除する。すると、そこには無防備な高次元生物が立ち尽くしていた。

「深也!」

 海奈の声と共に深也が高次元生物の背後に現れた。

「この距離なら……」

 深也は高次元生物の背中にナイフを突き立てた。しかし、手ごたえがない。まるで、真綿にナイフを突き立てたような、そんな感覚だった。

「何だ、こいつ……」

「ミィィィ!」

 戸惑いつつも、深也がナイフを抜くと、高次元生物は断末魔だけ残して砂のように消滅した。

「……やったのか?」

 深也が呟くように言うと、海奈は笑顔で答えた。

「うん。深也、柊、やったな!」

 海奈に快活な笑顔を向けられた深也は赤くなり、その場から立ち去ろうと走り出した。柊は、そんな彼を逃すまいと追いかける。

「深也君!」

 柊は深也に追いつくなり、ニヤニヤしながら声を掛けた。

「深也君も分かりやすいね」

 柊にそう言われて、深也は赤面しながら反論する。

「あ、あのね……きき、君はそういう話好きなのかもしれないけど、僕としてはそうもいかないんだよね!」

「ごめん……でも好きなんだよね?」

 目を輝かせながら引き下がる様子が無い柊に、深也は溜息をついて言った。

「……うん。でもこれ内緒ね」

「どうして?」

「向こうが僕みたいな根暗のこと好きなわけないし、それに……何か避けてるでしょ、恋愛の話」

 柊はそう言われて思い返す。確かに、先ほどのお茶会ではどこかぼんやりとしていた様子だった海奈。姉である花琳の好きな人の話をしている時も、曖昧な態度を取っていた。もしかしたら、恋愛の話をしたくない理由があるのかもしれない。そう思った柊は、深也に頷いた。

「分かった」

 柊が頷いたのを確認し、深也は安堵の溜息をつきながら、本部へ戻ろうと歩みを進めた。

 その時だった。

『3人とも!まだ相手は生きています!』

 真崎の声で2人が振り返ると、そこには無数の黒い手によって地面に吸い込まれていく海奈の姿があった。

「海奈!!」

 2人は慌てて駆け寄るが、海奈は地面に吸い込まれてしまった。

(今のがさっき言ってた影に飲み込まれたってことか……)

 柊が地面に触れると、ほかの場所とは異なり黒が濃く、中に入り込めるようになっていた。海奈を助けるためには、この中に入るしかない。覚悟を決めた柊は、深也を見て力強く声を掛けた。

「深也君、いこう!」

「で、でもこの中どうなってるか分からないし……僕も君も攻撃向きの能力じゃない……誰か待った方が……」

「もー!深也君の意気地無し!」

「ひっ……!?」

 柊に強い言葉をぶつけられ、深也は体をすくめる。そんな深也の様子などお構いなしに、柊はまくし立てた。

「海奈が危ない目に遭ってるかもしれないんだよ!?誰かを待つなんて言ってられない!助けに行こう!大事な人なんでしょ?」

「っ……ああ、もう。分かったよ……!こうなったら、行くしかない……」

 深也は半ば投げやりになりながらも、海奈を助けるために影の中へ飛び込んだ。

「……よし、行こう」

 影の中に消えていく深也の背中に、柊も続いた。


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