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椅子が世界を広げてくれた話

好きな場所を思い出してみて欲しい。

お気に入りのカフェ、職場の誰もこない場所、実家の自分の部屋…色々あると思うが、そのほとんど全ての場所にあるものが、僕の大好きなもの「椅子」である。


元々は建築物や、その建築家を調べたり、見に行ったりすることが好きだった。
名だたる建築家は必ずと言っていいほど椅子を作っている。ミース・ファン・デル・ローエも、ル・コルビジュエも、フランク・ロイド・ライトも、安藤忠雄も、黒川紀章も…誰でも思いつくような建築家はもれなく椅子を作っている。


建物を建てるよりも遥かに低コストかつ、時間もかからず、制限も少ない中で自分の世界観を表現できるからである。
そんなわけで、世界各国を旅しないと見ることができない建築と比べて、どう考えても実物を見るのにそこまで苦労せず、建築家の哲学も知ることができる椅子の方を、どんどん好きになっていった。


椅子を好きだという人は驚くほど少ないが、家にいる時間がかつてないほどに増えた今、椅子の重要性は明らかに高まっているし、不謹慎かもしれないが、この状況を僕は「椅子が好きな人を増やすチャンス」と捉えてもいる。せっかくの機会なので、ここでいくつか、椅子を大好きになって良かったことを紹介したいと思う。

こんな変化を楽しめる人は、自粛期間が終わったら、是非お気に入りの一脚を見つける旅に出てみて欲しい。

普段見ている何気ない風景が楽しくなった。
例えば、アカプルコチェアがメキシコ生まれであることを知っていれば、中目黒にあるカフェテラスでメキシコの太陽やカラフルな建物群に思いを馳せることができる。

恵比寿で、たまたま入った居酒屋にジョージ・ナカシマのラウンジアームチェアが置いてあれば、店主の「木」に対するこだわりを感じることができて、料理やお酒にも不思議とこだわりを感じる。

普通に過ごしたていたら気づけない場所に気づくことができた。
「長大作の中座椅子に座りたい!」と思って足を向けた調布の猿田彦珈琲で、自然光が射す、本を読むのに最適な美しいスペースを知ることができた。
コノイドチェアに座って食事ができる場所を調べて知った「天ぷら山の上Ginza」でハマグリの天ぷらの美味しさに気づくこともできた。

人付き合いにおいて大切なことを身体で学ぶことができた。
折りまげる段階で、どうしてもヒビが入ってしまうところを切り抜いて今の形に落ち着いたアントチェアは、「弱点はチャームポイントに変えられる」ことを教えてくれた。

あぐらをかけるほど座面が広く、裸足で足の裏が地面につけられるほど座高が低いトヨさんの椅子を見て、「本当に行き届いた配慮は目には見えない」ことを身体で感じることができた。

椅子は、世界を広げてくれる。

こうやって思いを巡らせたり、お気に入りの椅子のことを調べたりしているだけで楽しいのだが、やっぱり美術館や、家具屋さんや、カフェに行って実物を見たいし、もっと色々な椅子に座りたい。


そんな日がまた戻ってきて欲しい。