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離婚することになるかもしれない。

結婚して早6年。我が家は比較的あっさりしたパートナーシップを築いているのだけれど、お互いへのリスペクトと感謝は忘れずに、という共通認識がある。関係性もとてもいいと思う。

生活に対するこだわりや癖、個人の嗜好についても、よっぽどのことがなければ「お好きにどうぞ」スタイルを守り続けてきた。

水滴レベルでも、無駄にティッシュを2枚使って拭く夫。
1枚で足りるのになぁ、と思いながらも、拭いてくれることに感謝はしているし、ダイニングテーブルの食べ残しを掃除機で吸い取るのだって、「おおおおいいいぃぃ!!!!衛生観念前世からやり直してこいよぉぉ!!!!台拭きの意味ぃぃィィ!!!」という心の声をぐっと飲み込み、やはり「綺麗に整えた状態が正」という姿勢に感謝する。

まぁいろいろ、いろいろ、いろいろあるけれど、お互い様。突散らかしながら暮らしの中における無を有にする私と、またそれを無に戻す夫と、バランスが取れているのでよしとしている。感謝という名の許容である。


そんな平和な我が家で、珍しく水面下で激しくぶつかり合った唯一の事件、タオル紛争(2012-2020現在)―――互いの好みであるタオルを否定しあい、場合によってはバレないように抹殺する―――の話をしてみたい。


なぜか常に家にある薄いタオルを、雑巾がわりに使って捨てようとしたそのときだった。「捨てないで」と夫が声をかけてきたのである。

いいタオルが当然気持ちいいと思っている私は、ペラペラタオル(以下ペラタ)をせっせと雑巾的用途に格下げし、自分の好きな、厚すぎずとろみ感のある、肌あたりの気持ちいいタオルを残す事で、タオル棚の秩序を守っていた。
夫にも気持ちいいタオルを使ってもらいたい。何とも尊い愛である。

ところがその日、ペラタは、私が積極的に排除する一方で、夫側でも積極的に導入している、彼好みのタオルであることが判明したのだ。

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戸惑いを隠せない当時の私。

薄すぎるよねこれ。
場合によっては雑巾より吸水しないやつだよね。


あぁそうか、夫は知らないのだ。いいタオル童貞なのだ。
ペラタ愛は、お金のない一人暮らし時代に使っていた、「とりあえず」の子たちに対する愛着のようなもので、一度上のランクを体感すれば、二度と戻れなくなるに違いない。

そう思った私は、ことあるごとに、夫、拭けてる?本当にこのタオルでいいの…?ほら、この気持ちいいタオルに顔を埋めてみて!ほら!ほら!!!とこちら側の主張をぶつけ続けた。
しかし、彼の意志は堅く、ペラタに注ぐ愛情が揺るぎないものであることを私は理解し始めた。

最初は、大人なんだから相応のものを使いなさいよ…と流していた私だったけれど、日毎にタオル棚で存在感を増すそのペラタを、徐々に憎むようになっていった。

己のエゴで、夫の好みを全否定し始めたのである。
タオル紛争勃発である。

古びた夫のペラタをこっそり別の戸棚に移し、雑巾にしてみたり、子どもの粗相の処理に積極的に持ち出したりしながら、少しずつ少しずつ亡き者にしているのを、おそらく夫も気づいている。
あまり派手にやると、離婚騒動になるかもしれない。そんな危機感を抱きながらも、私の中のタオルの固定概念と、心地よいタオルに囲まれた心穏やかな生活への想いが抑えきれなかった。

どう見ても寿命を迎えたペラタを手にしている私に向かって、捨てんなよ…?と睨みをきかせてくる夫。
「なんか俺のタオル減ってんだけど」と、明らかに好戦的に探りをいれてくる夫。

普段ドライでクールとは言え、争いは好まず比較的こちらに譲ってくれる平和主義な彼が、敵意を剥き出しにしてくる。

「お互いへのリスペクトと感謝」。6年寄り添い、家族も増え、チームとしてそれなりに回している私たちだけど…え、さすがにこぼしたコーヒー拭いて着色してるタオルは雑巾にさせて…?


洗うと即へこたれ、「起毛」という概念すら放棄するこの仕様。タオルと名乗るならば、パイルの構造を確立せよ!と思わずにはいられない。

いや、馬鹿にしてるわけではないんですよ。
否定したいわけでもない。
ペラタのことも、その素朴な趣をこよなく愛する彼のことも、できれば受け入れたいと心から思っている。

みんな違ってみんな良い。
タオルだって、別に好きなものをそれぞれ使えば良い話じゃないの。好みや思考は本当に人それぞれだし、そのガサガサしたタオルで髪の毛ワッシャーやるのが最高なんだよね?タオルの粗さは男のロマン。そんな感じ?合ってる?

でもこのうっすーーーーいタオルが収納されている棚を見るたび、そこそこの厚みのタオルとタオルの間にキュッと挟まれている姿を見るたび、ある種の失望と切なさが押し寄せてきて、どうしようもなく泣けてくるのである。

薄い…。あまりにも薄い…。
こぼれ落ちた涙を拭くのにすら耐えられぬ起毛よ…。
もはやティッシュ2枚でいいじゃん。
むしろもう、ティッシュ2枚でいいよ。3枚使ってもいいよ。



幸か不幸か、そろそろまたタオルを新調する時期がやってきた。

消耗品であるタオルを新調するちょっと嬉しいはずの暮らしのイベントが、争いの火種を抱えているという悲しき矛盾。
今のところ、一生を共にする戦友なのだから、やはり互いにとって心地いい日々を送りたい。

皆の幸せを考えた場合の、正しいタオル比率とはどのようなものなのだろう。また、ペラ派ととろみ派の落としどころとなる新星タオルはこの世に存在するのだろうか。

次、これにしたいんだよなぁ。気持ちよさそー。


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