見出し画像

シュレーディンガーの子猫 ~プロローグ:セクション1~

「我々が日常だと思っているのは単なる錯覚なのかも……」
私たちの世界は現実なのか?はたまたVRの世界なのか?
何を信じればいいのか?それが問題だ。

「みゃ~お」
「うわっ!びっくりした。なんでここにネコ?」
まだ小さいその子猫は、僕の足にまとわり付いて、スリスリしている。
子猫はまるで僕を誘うかのように、後ろを振り向きながら鳴き声を上げている。
僕は会社のデスクから腰を上げると、仕事中にもかかわらず子猫の後をついて行った。

僕の職場は10人も満たない小さなスタートアップ企業で、結構自由に仕事ができた。
誰かと話すことが好きではない僕にとっては居心地の良い場所であることは確かで、人に干渉されないで仕事が出来るのは嬉しい。
同じ職場の人との会話はほとんどチャットで済むし、職場に来ても顔を見ることもない。
僕は一日中、モニターの前でタップ&フリックしていればいいだけだ。
僕の業務はモニターで会話するだけ、チャットの延長線上にあるようなサービスで、人の顔を見ないで済む。
誰かと会話するのでも、文字を書くだけと、声に出して話すのとでは、僕の気持ちは大分異なる。
何処かの出会い系サクラ業務を一度経験したことがあれば誰でも出来るような仕事だ。
僕はバイトで少しだけやったことがある。
女の子になるのは簡単なことじゃなかったけど、マニュアルがあったら続けることが出来た。
そのバイトは結構楽しかった。ずっと続けられたらとも思ったんだけど、その会社は社長含めて詐欺罪でみんな捕まってしまった。
僕が丁度、受験と就活で休みを取っていた時期の出来事で、僕の好きなOVA作品の購入に当てようとしていた資金が結局足りずに、最終巻を見逃す羽目になったのは今でも心残りだった。
そして、この春に就職して、もうすぐ初めての給与が手に入る。
やっと買える。
僕は、そのためだけに就職したようなものだ。
合法でしかも似たような仕事を探すのには骨が折れたけど、見つけることが出来て良かったと胸を撫で下ろしている。
警察に僕が捕まらなかったのは、その詐欺罪で捕まった会社が従業員の数と名簿を偽っていたからに他ならず、給与も現金手渡しで足がつかなかったからだ。
僕はその組織にとっては存在していなかったことになっている。
だから僕もその組織にはかかわらなかったことにしているんだ。
履歴書にも経歴書にも書くことはない。
ただ、毎日オタクとしてブログやチャットを書いていたという経歴だけあればそれでいいんだ。
就職採用者も僕のブログとチャットの内容を見て採用してくれた。
ここではどんな文章を書くのかが重要なのではなくって、ブログやチャットでどんな応対をしていたのかが重要なようだった。
それがネット上のクレーマー対策室という職業のようなのだ。
他者から依頼されて、このクレーマーには御社で対応してと、依頼が入るらしい。
僕はそんなクレーマーと毎日会話をするだけの仕事だ。


☆★☆★☆★☆★☆★☆★

次回予告:

時々思うんだ。
このクレーマーは本当に実在する人物なのだろうか?
もしかしたらAIクレーマーで、僕を試しているだけなんじゃないか?
とか。
サクラをやっている時もそうだった。
いや、向こうが男や女なのか性別すら区別が付かなくなっていて、僕が男なのか女なのかすら分からなくなって、適当な会話をしているはずなのに、僕はなんだかその存在しないはずの女性が本当の僕なのじゃないかと思うように心からフェミだったのかもしれないと思う事もあった。

ここから先は

0字
この記事のみ ¥ 250

いつもサポートありがとうございます♪ 苦情やメッセージなどありましたらご遠慮無く↓へ https://note.mu/otspace0715/message