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朝ドラ『虎に翼』で考えるセクシャルマイノリティとエンタメのこれから

NHK朝の連続テレビ小説『虎に翼』に、ある一人の男が出てくる。戸塚純貴さんが演じている轟という男である。

彼は主人公・寅子(伊藤沙莉さん)の夫ではない。初恋の相手でもない。なんなら最初は敵と言ってもよい登場の仕方であった。いつもヤイヤイと女性陣にいちゃもんを付ける”モブ”的存在だった彼が、回を重ねるごとに好感度を高めていき、視聴者からは「俺たちの轟」と呼ばれるほどの人気キャラとなった。戦後、花岡(岩田剛典さん)の無事が分かったときも「それより轟の安否が気になる」という視聴者が多かったほどだ。

そんな彼が6月10日(月)放送の第51回で、自分のセクシャリティに気づく場面があった。いや、正確には気付いてはいないかもしれない。だが、初めてそのことを人から指摘され「よく分からない」と思える段階に一歩足を踏み出したのだ。

轟が花岡の死を知りショックを受けていたところ、同級生のよね(土居志央梨さん)と再会。そこでよねに「惚れてたんだろ、花岡に」と迫られたのだ。轟は「よく分からない」と言いつつも、これまで抱えていた花岡への特別な想いを吐露。この一連の流れによねが「白黒つける気はない」としていたこともあり、SNSでは様々な憶測が飛び交った。

「轟から花岡への想いは”人間愛”的なことだと思う」
「よねは轟のことが好きだから、轟の花岡への気持ちに気づいたのでは」
「よねさんも花岡のことが好きだったのでは」
「よねさんは寅子のことが好きで、だから轟の同性への気持ちに気づいたのかも」

そしてドラマへの”考察”だった視聴者の言葉たちは、いつの間にか攻撃性を持つようになっていった。

「朝ドラにLGBTQを盛り込む必要はない」
「BL展開?ドラマの展開に関係ない」
「世間から評価を得るために無理やりLGBTQを盛り込んでいる」

愛すべき『虎に翼』を盛り上げるためにあるべき#虎に翼のハッシュタグでは、轟やよねに対する攻撃的な言葉だけではなく、セクシャルマイノリティ当事者を傷つけるような言葉が多く見られた。

シンプルに悲しかった。

どうして「同性への特別な気持ち」は「人間愛」にカウントされてしまうのか。
どうして「異性が仲良し」だと、なんでもかんでも「恋愛」に結びつけるのか。
どうして「セクシャルマイノリティ」が物語に登場すると「盛り込んだ」ことになるのか。

確かに、同性に特別な人間愛を抱くこともあるし、仲の良い異性がカップルになることもあるし、セクシャルマイノリティが世間的な評価を得るために盛り込まれ、消費され、なんとなく美談で済まされることもある。

でも今回は。今回の轟の花岡への気持ちに関しては。
脚本家の吉田恵里香さんが”轟の、花岡への想いは初登場の時から【恋愛的感情を含んでいる】”と明言している。

この投稿にどれだけ心が救われたか。
『虎に翼』を「セクシャルマイノリティを扱った朝ドラ」にしたかったから轟の花岡への気持ちを描いたのではなかった。
これが分かっただけで、私はもうガッツポーズ。にんまり。噛みしめて噛みしめて「全員この投稿見ろ!」の気持ち。ほんと全員見て。見ろ。

最近のドラマ・映画作品は、同性愛という愛の形が登場することが増えたと感じている。もちろん同性愛だけではなくて「人を恋愛的に好きにならない」「異性・同性どちらも好きになる」など、セクシャルマイノリティに該当する人がサラッとナチュラルに登場することが増えて嬉しい。

その発端は男性同士のカップルを描く「おっさんずラブ」や「チェリマホ」のヒットだったように思う。女性同士のカップルが主人公の作品も増えつつあり「チェイサーゲームW」や「作りたい女と食べたい女」の反響が大きかったことも記憶に新しい。

でもそれらの「同性同士のカップルが主人公のドラマ」は、簡単に言うと「セクシャルマイノリティに寛容である人」しか鼻から見ていない。セクシャルマイノリティに否定的な意見・視点を持っている人は”同性同士のラブストーリー”という売り文句を見て「見るのはやめよう」と思うはずだ。

だから今回の『虎に翼』のように、セクシャルマイノリティ当事者やセクシャルに対して知見がある人と、「ゲイ」「レズ」といった単語しか知らないレベルの人やセクシャルマイノリティにマイナスイメージを持っている人が、同じタイミングで分かりやすい事前情報なしに「セクシャルマイノリティ」という演出に出会うと衝突が起こってしまう。

セクシャルマイノリティ当事者やセクシャルに対して知見がある人は「朝ドラでセクシャルマイノリティが取り上げられる時代になったことが嬉しい」と感じたり、轟の花岡への気持ちを素直に肯定する人が多かったのではないだろうか。

逆にこれまでセクシャルについて深く知る機会のなかった人や、何らかがきっかけでセクシャルマイノリティに否定的な意見を持つ人は、いきなりぶっこまれた「同性愛」に恐れ慄き、怯え、後ずさりしながらもヤイヤイと吠えてるしかなかったのだと思う。

言葉が過ぎました。すみません。

でも、今回の一連はずっと男子たちだけで勉学に励んできた轟が寅子たち”女子”という未知の生物にヤイヤイと吠えていたのと同じことだと思っている。無知が一番怖いとはこのことだ。

でも、轟が未知の生物にヤイヤイ吠えていたのはもう100年も前の話。
”少数派”にヤイヤイ吠えている人こそが”少数派”になってきていることに気づいてくれ。大半の人はもう、自分と違う人間のことを認め、認められなくても静かにそっとしているのだよ。

これからのエンタメでは、今よりももっとナチュラルにセクシャルマイノリティや、その他の”少数派”とされる人々が登場したらいいのになと思う。(セリフのニュアンスや演出が非常に難しいのは問題として一つあるが)

本編が男女の恋愛で、同性愛はHulu限定配信とかじゃなくて。仲良し3人組の一人に同性のパートナーがいるとか、会社に車椅子ユーザーがいるとか、店員さんが手話を使っていたりとか、恋人がADHDとか、親友がパニック障害と戦っているとか。
色んなドラマに色んな事情を抱える人たちが、サラッとナチュラルに出てくるようになれば、今知らずに怯えている人も知ることで「怖さ」や「偏見」は減るかもしれない。
「それでも俺はセクシャルマイノリティが絶対に嫌いなんだ!」という人が見るテレビ番組が一つもなくなればいいのにと思う。(それは極端)

『虎に翼』は、セクシャルマイノリティについて無知である人たちの心を何かしら動かすという大きな一歩になってくれた。たくさんの人たちが観る朝ドラだったからこそ意味があったと思う。

未来の子どもたちが自分のセクシャルマイノリティやコンプレックスという名のアイデンティティに悩んだとき「あのドラマにもあの映画にも自分と同じような人が出てきている!」「だからきっと大丈夫だ!」と思える、そんなエンタメ作品がこれからたくさん増えてほしいと切に願っている。

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