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もぞもぞ
どこかから地球の足音が聞こえる、と子どもたちが言った。
どんな足音なんだい?と訊くと、知らない、と答える。
見上げるといつもより蒼い空が、まるで深い海のようにみえる。僕は少しだけ怖くなった。まるで僕にまで、地球の足音が聞えたような気がしたから。
それに、この蒼さが少し湾曲してまあるくて、すぐそばを回る青色の衛星のように見えたから。
最近、たくさんの雲が沸き立つようになった。
たくさんの雨が降るようになった。
それが僕たちの星の微かな変調だということを、子どもたちはまだ知らない。だって、僕たち大人にだって、うまく説明できるほどの観測はできていないから。
きっと、気のせいだよ。大人も子どもも、みんなそう誤魔化すことにしている。でも、どこかで、なにかが、もぞもぞしている。
もぞもぞ。
*
僕たちは乾いた世界のことや、水没した世界のことや、燃え盛る世界のことや、凍りついた世界のことや、僕たちのいない世界のことや、僕たちだらけの世界のことや、そのほか、たくさんの世界がどんどん分岐していっていることも知っている。どれもとても透明で、とても近くて、とてもたくさんありすぎて、たくさんのものを見逃しているけれど。
最近、変なんだよね、とみんな口をそろえて言う。けれども、みんな普段通りの顔をして、普段通りの一日を過ごして、それから、やっぱり変なんだよねとみんな言う。
みんなの口元がなんだか、もぞもぞ。
*
そうだ、知ってるよね?最近、地球と名乗る星からロケットが、僕たちの星に向けてどんどん発射されているらしいって。
ロケット発射と異常気象と、地球の足音との間に、因果関係があるかどうか、僕にはわからない。科学者たちだって「チュー」と言って気絶してしまうくらい、よくわからない謎なんだ。
本当に地球に知的生命体が住んでいるとしても、僕たちの想いは変わらない。たぶん彼らにも僕たちのことは見えていないから。僕たちから地球人の姿が見えないのと同じように。
そして、砂漠の真ん中に着陸したロケットのそばに、仕掛けたマイクが拾ったのは、やっぱり変な音。
もぞもぞ。
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