遠い世界の片隅から
こんばんは。
火星のラジオ電波が遠隔地にまで届くようになって、わたしたちの生活は少しづつワールドワイドに広がったことを実感しています。故郷の星の人たちには「え?インターネットがあるのに」とびっくりされるのです。
残念ながら、火星の世の中にインターネットは存在しません。あったとしてもローカルなコミューン内でのみつながるものだったり、いろんな規制がついているものです。
だから、とても火星の仲間たちの情報交換は、限定的で閉じられたものでした。
夜の街の中に、たったひとりで歩いているような、火星の孤独さは一種異様なものだったのです。
*
このお手紙届きましたか?こんな風に、知らない世界に手紙を書くことも、初めてです。
放送が届くようになってから、ほぼ毎晩聴いています。海と砂漠を跨いだコミューンからの声が、すごく身近な声となって、わたしの側で響くのが、夜のわたしの唯一の楽しみです。
おかげで世界は赤一色からフルカラーの世界へと飛び込んで、止まっていた私の中の時計や遺伝子など、あらゆるものの再起動音が聞こえるかのようです。
わたしからのリクエスト曲は、ジョルジュ・リゲティの「開放弦」。真夜中にいつもこっそり聴く音楽です。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?