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未知との遭遇
タオルはいつも正直だ。いい加減に洗濯をすると、すぐわかる。薄汚れていたり、匂いが鼻についたりする。
今朝は乾いた風がベランダを吹き抜けていく。人工降雨の不自然さにうんざりし続けていたので、久しぶりに爽快な一日のはじまりだ。
明日は朝から雨、明後日も一日雨。一週間ずっと雨。天気予報も言っていた。
*
9時18分、やっぱり電話のベルが鳴った。「ねえ、聞いてよ」と友達の痴話げんかの顛末を、これから一時間も聞かされるんだ。だから、あえて受話器を取らないで置いた。こうすることで、未来を変えることだって私には出来るんだ。
ベランダで風にはためくタオルが、元気な音を立てている。飛ばされないようにしっかりピンチで止めているから大丈夫。
正午には火星人からのいたずら電話がかかってきて、夕方には東の空に大きめの火球が流れる予定だった。いたずら電話はスルーすることになっている。
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12時12分、未知との遭遇が未遂となるはずのベルが、けたたましく鳴った。ベルの音はいつもと同じ響きだった。
「はい」と思い切って電話に出てみる。また未来が変わってしまうことを承知の上だ。
「電話に出てしまわれたのですか?」と向こうが驚いていた。
「はい」と私はなにかいけないことをしたのだろうかと自身を振り返った。少しだけ雲が出てきたみたいで、部屋が薄暗くなってきた。
干していたタオルのことが、とても心配になってきた。
*
火星人はいたずら電話がスルーされるつもりだったのだという。だから、どんな風に困らせればいいのか、その方法までは考えていなかったらしい。彼にも未来が見えているのだ。可哀そうに。
「無言電話とかどうですか?」と私は提案してみた。
「もうとっくに喋っていますよ」と火星人は不服そうな声で答えた。
「ちょっと待ってね」と私は保留音を流した。どうしても干していたタオルのことが気になって、もう取り入れておきたかった。風向きが変わって、雨の匂いも混じってきていた。
ベランダから急いで戻ってくると、保留音のドビュッシーの音楽を切った。すでに、電話は向こうから切られていた。
*
15時3分、思いがけない電話のベルが鳴った。まったく予測できていなかった。こんなことはめったにない。
「はい」と私は出た。受話器からはなにも聞こえてこない。
私は1分間だけと思って、じっと耳を澄ました。でも、1分もしないうちに向こうが喋り出した。「これって、全然面白くともなんともないですね」
また火星人は不服そうな声だった。
「ねえ、知ってる?」と私は夕方の火球のことを彼に教えた。火星人は仲間と情報を共有したいと言って、喜んで電話を切った。火星人はきっととっても暇で、友達が欲しかっただけなのだろう。
雨の匂いがずっとしていた。けれど、まだ雨は降りそうになかった。
また、しばらくタオルを外で干せなくなるのかと思うと、とても残念だった。
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