見出し画像

「管理不全高経年マンション、最期は国が何とかしてくれる」の『最期』っていつ?

高経年マンションを管理しがち、マンション管理士のおとうふです。
さて、Twitterやってましたら「管理不全に陥った高経年マンション、最期は国が何とかしてくれる」みたいなニュアンスの話を目にしまして、この場合の「最期」っていつの事を指しているのかな、と考えてました。
実体験も挟みながらお話してみたいと思います。お付き合いいただければと存じます。

マンションの「最期」

コンクリートの巨大な塊であるマンションは、一般的には最期どうなってしまうと考えられているのでしょうか。マンション建替え円滑化法(以下「円滑化法」)上では「建替え」「敷地売却」のどちらかを想定しています。
他には「行政代執行」「円滑化法外の売却」が考えられます。

建替えとは

既存マンションを解体し、新しいマンションを建てる方法です。
言葉で表すととてもシンプルなのですが、これを「円滑化法」に則った形で行おうとするとまあ大変。

出典:国土交通省 資料1 建替え関連書式 - 1.参考様式

検討を始めてから建替えが完了するまでスムーズにいって5年、長いと15年程度かかる場合があります。また、既存建物の解体費用、新築費用も当然区分所有者持ちです。建替えは容積率を緩和し、マンションの部屋数を増やして新築することで増床分の売却益で区分所有者の費用負担を軽減するような話がありましたが、現実的には区分所有者にも数千万単位の費用負担があることがほとんどです。

出典:国土交通省 マンション建替えの実施状況(2022年4月1日時点/2022年6月28日更新)

何よりも2022年時点で建替え工事が完了したマンションが270件しかない事が、建替えの難しさの証左ではないでしょうか。

敷地売却とは

読んで字の如く「敷地を売却する」方法です。これまた円滑化法に則って行うと売却推進決議、要除却認定、建物売却決議、マンション敷地売却組合設立…と様々な決議、手続きが必要となり、多くの費用と時間がかかってしまいます。「最期」としてはやはりハードルが高いと思います。

行政代執行とは

行政代執行(ぎょうせいだいしっこう)とは、行政上の強制執行の一種。義務者が行政上の義務を履行しない場合に、行政庁が、自ら義務者のなすべき行為をなし、又は第三者をしてこれをなさしめ、その費用を義務者から徴収することをいう(行政代執行法1条、2条)。

出典:Wikipedia

区分所有者(義務者)が適切な管理をしなかったためボロボロになったマンションを、行政が代執行で撤去して撤去費用を区分所有者に請求しましたという話。
有名なのが滋賀県野洲市の「美和コーポ」の例。

2023年5月時点では大変なレアケースですし、この「最期」を目指すというのは健全なものではないと思われます。

円滑化法外の売却とは

先に述べたように、円滑化法に則った敷地売却って本当に大変なんです。
そのため「誰か」が個別に各区分所有者と売買し、最終的に全区分を1人の区分所有者が所有する方法があります「誰か」はデベロッパーだったり、不動産業者だったり、投資家だったりするようです。
他の方法よりは簡便なのではと思いますが、「誰か」が複数人いると陣取り合戦というか、アタック25みたいになるのでモメる可能性があるので慎重に進める必要があります。

25戸のマンションで区分所有者数4…。この後どうなる?

国の出番は?

以上「最期」と思しき方法を4つ挙げましたが、いずれも難しいというのが私の結論です。では国はどこで関与してくるのでしょうか。
管理不全マンションを国が直接助けるような法律は現時点ではありません。2022年、マンションの管理の適正化の推進に関する法律(以下「適正化法」)が改正され、都道府県等は「マンション管理適正化推進計画」を作成することができる様になりましたが、強制ではなく任意です。
「管理不全高経年マンション」が全国的に増え、市民生活に影響が出るようになれば法改正や新しい法律を作って高経年マンションに何がしかの補助を出すかもしれません。ただ、その場合「他の居住形態の方との平等性」は保たれるのでしょうか。分譲マンションはあくまで多くの居住形態の一つに過ぎません。全国的に見れば分譲マンションに住んでいるのは国民の1割超しかおらず、他の9割弱の国民は戸建住宅、賃貸アパートや賃貸マンションに住んでおります。

出典:国土交通省 分譲マンションストック戸数(2021年末現在/2022年6月28日更新)

「分譲マンションだけに補助を出すこと」を戸建住宅に住んでいる人はどう思うのでしょうか。また、同じコンクリート造の建物である賃貸マンションの所有者は納得出来るでしょうか。この方達が「分譲マンションだけに補助を出すこと」を納得するような「管理不全高経年マンション」とはどのような状態でしょうか。

部品が無くエレベーターが修理できずに数ヶ月停止している状態でしょうか。
受水槽の清掃が数年放置されている状態でしょうか。
役員のなり手がおらず後期高齢者の理事長が理事長印と通帳を仕方なく保管している状態でしょうか。

このような状態のマンションは「最期」でしょうか。
多分違います。「居住に適さない」状態ですが「最期」のもっとずっと前の段階だと思われます。

要するにマンションの「最期」って、我々が考えているよりずっと遠いものなのではないかと思います。

「居住に適さない」なら他に引っ越せばいいじゃない、と思われる方もいらっしゃると思います。ただ、例えばそのようなマンションに身寄りのない後期高齢者が一人でお住まいになっていて、健康状態が万全じゃなく、年金も少なく、建物の修繕にも費用を支出出来ないような状態である場合、果たして建物の修繕ほか、マンション管理がどのくらい機能するものでしょうか。
外壁落下の危険性があり、通行人に危害を与えうるマンションに対し、現時点の法律でどのような対応が出来るのでしょうか。

個人レベルではマンションの流通性がなくなる前に他の方に売れば済むかもしれません。高経年マンションの売買が「ババ抜き」と言われる所以です。

まとめ

高経年マンションについて記事を書いていると、まとめの辺りでなんだか陰鬱な気持ちになるんですよね。なんだか、やりきれないモヤモヤが溜まるんですよね。リラックス、リラックス。

記事中、私ずっと「最後」でなく「最期」って書いてきました。違和感があった方もいらっしゃると思います。

さい ご 【最期】〔「ご」は呉音〕
命の終わるとき。死にぎわ。臨終。末期。「最期をみとる」「友人の最期に立ち会う」「あっぱれな最期だった」〔同音語の「最後」は物事の一番おしまいのことであるが,それに対して「最期」は人の死にぎわのことをいう〕

引用:大辞林

「最後」でなく「最期」とした理由は、私はマンションの終わりというのは簡単なものでなく、それこそ「命の終わり」程の重みがあると考えているからです。ナンツッテ。

「最期」を待つのではなく、将来設計をどうするか、少しずつでも良いのでマンション全体で早めに話し合う事をお勧めします。マンションのため、そして何より自分のために。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?