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風邪をひいた感想文


先週、風邪をひいた。ほんとうに5年ぶりぐらいのことだった。次がいつになるかもわからない。(なるべく遠い未来がいい。)だから感想文を残しておくとする。


今はもうほとんど治っているが、ふとした瞬間の呼吸や喉の動きに風邪の名残があって、日常の連続性のようなものを感じる。夜が突然朝にならないように、流れる雲が突然クジラにならないように。そんなこととまったく同じようにある瞬間突然風邪が治ることもないのだろう。だから明日の朝目が覚めたら虫になっているようなこともきっとあるまい。日常は連続性のものだ。

自分が風邪をひいているな、と勘付いたのはとある日の退勤中の電車内だった。5年ぶりとはいえ身体はよく覚えていた。幼い頃のおぼろげな記憶と現在の倦怠感及び熱っぽさを照会する。ママの作るおかゆの味を覚えていることを初めて知った。
病院は面倒な可能性をやんわり否定してくれるだけで、特に即効性のある解決策ではない。薬局も同様。薬を貰って、食料を買い込みにスーパーへ向かう。
買い物中、全ての音、光、匂いを普段の倍以上に感じる。感覚器がダレている。そして感覚器からくる情報を処理する脳もやる気がない。世の中はこんなにも雑多な色に溢れていたのか。檸檬の黄色が目に残る。
簡単な食料を詰め込んだカゴを差し出す。買ったものをバッグに詰める。檸檬だけ手で持って帰る。熱っぽい手に浮かぶひやりとした感触。ちょっと久しぶりの風邪に浮かれすぎているなと思った。(丸善には向かわず帰宅。)


あとはひたすら寝たり食べたり薬を飲んだり寝たりで特筆すべきことはない。風邪っぴきつまんなかった。せっかくお休みだったのにぃ。

身体の各所を蝕む不快感は日に日に薄れてゆくもので、2日経った頃にはあらかた良くなっていた。怠さ息苦しさはもはや無視できるほどに小さくなっていた。いや、慣れたせいもかなりあるかもしれない。この時期になると人は意味のない夜の徘徊を再開する。歩き回って、夜を流す。まだ寒い3月の北海道の風が倦怠感を呼び戻す。

足元がふらつく。急に消えたくなってしまった。身体の不調は気付かぬうちに精神を喰い進めていたらしい。家に帰る気力がなくなってしまった。街灯に寄りかかり、残雪を蹴散らす。溶けきらぬ雪だまりが少し低くなったこと、誰が気づくだろうか。ブーツの跡は明日の朝を見ない。通行人のいない夜道、誰が私の不在に気づきうるだろう。意味なく消えたくなってしまった

自分の存在の要否に必要以上にスポットライトが当たっていた。そんなことを考える人間がじゅうぶんに生き続けることは自明なことだ。世に溢れる過去がそれを証明している。自分でその実感を会得していく前から、知識としてそれを知っているとはなんと野暮でつまらないことだろう。算術の本の後ろの頁に答えが載っているのを見つけた時に落胆した少年がいたことを思い出した。


なんかもうかぜひいた感想文とかじゃなくない?

お身体には気をつけてね

健康が揺らぐ、風邪の息継ぎに己の生の安定を客観視したのでーした!おやすみー!!^_^

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