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蚊が飛んでいる

今 僕の近くを蚊が飛んでいる。

耳元で、「フィ~ン」だか「プーン」だか「ブーン」だか知らないが、羽音を鳴らしながら飛んでいる。

蚊の存在を感じると、反射的に体のどこかがムズ痒くなる。

「蚊=痒い」という回路が脳に出来上がるほど、産まれてからこの歳になるまで、数えきれないくらい蚊に刺されてきた。

刺される度、いつも思う。

なぜだ?と。

なぜ「痒み」を残していくのだ?と。

こちらは蚊に血という栄養を提供しているというのに。

恩を仇で返すとは、このことを言うのではないだろうか?

テレビで「蚊に刺されると痒くなる理由」みたいなのを放送していたが、

そんなの関係ない!

痒くなる理由など分かっても、痒みが治まるどころか、余計に痒くなる。

心持ちのことを話しているのだ。心持ちのことを。

普通に考えるならば、ご飯を奢ってもらったら、最低でも「ありがとう(笑顔)」を伝えるのが筋だ。なんなら、お返しに後日、ご飯を奢ったり、ちょっとしたお菓子を渡したりする。

でも、蚊がやっていることは、なんだ?

奢ってもらった相手に、軽くビンタをかましているようなものではないか?

「蚊だって種の存続のために命がけで血を吸っている」だと?

気持ちよく血を吸われるならば、誰も蚊を叩き潰したりしない。

「蚊よ、この生き辛い世の中を、共に生きていこうではないか」

「蚊、調子はどうだ?私の血を吸って元気な子供を産めよ」

と言われるくらい信頼関係を築けるようになったら、安心して血を吸えるようになるじゃないか!命懸けになる必要なんか無いのではないか?

そこのところ、君はどう考えているんだ!?何か考えているアイデア等あるのか!?


と、問い詰めると、それまでずっと黙っていた蚊が、ポツリポツリと話し始めた。

「私たちだって、血を吸う度、良心の呵責があります。感謝の気持ちを忘れたことはありません。本当です」

蚊の瞳から、一粒の涙がこぼれる。

「でも、私たちには、恩返しなんかできないんです!もちろん、仲間で相談したりしました。何をすれば、この気持ちが伝わるのだろう?感謝が伝わるのだろう?血を吸うことが出来たお陰で産まれた、元気な卵や赤ちゃんを見せにいこうか。それとも、花の蜜を集めてプレゼントしようか,,,」

蚊は、プルプルと身体を震わせている。

「でも、所詮は蚊です。出来ることなんて、たかが知れています。人間に満足してもらうようなことは、出来るわけがない,,,。害虫と言われて、誰が嬉しいもんですか!?悲しいですよ!苦しいですよ!それでも、血を吸うことでしか、私たちは子孫を残すことができないんです,,,,,無力な自分が、悔しくて、情けない,,,,,」

蚊は、ガックリと膝をつき、ついには、その場でオイオイ泣き出した。

僕は、そっと彼女の傍に行き、背中を撫でてやった。

そして、何も考えず、彼女らを害虫と呼んでいた自分を恥じた。

「悪かった。自分たちの都合ばかりを考え、君たちを迫害していた。君たちだって必死で生きているのに,,,。これからは、共存していこう。でも、そのための方法を考えなければならない。だって、君たちに血を吸われることで、感染症にかかり、死に至る可能性があるのだから。でも、共存のための良い方法が、何かあるはずだ」

蚊は恐る恐る、目を上げ、僕を見つめてきた。

ああ、よく見ると、純粋で綺麗な瞳をしているじゃないか。

「そんなことが可能なんですか?」

「大丈夫だ!人間を信じろ!今までは君たちを殺すために科学の力を全力で使ってきたが、共存のために科学の力を使おうとすれば、きっとできる!」

先日、蚊の遺伝子操作を行うことにより、マラリアを撲滅しようとする動きが世界中に起こっているという記事を読んだ。それにより共存できるかどうかは分からない。しかし、誰かが働きかけなければ、世界は変わらないのだ。

蚊の瞳が、また涙で溢れる。

「こんな日がくるなんて,,,,,。嬉しいです!ありがとう!よろしくお願いします!よろしくお願いします!」

こらえきれなくなったのか、蚊は、僕の胸に顔をうずめて泣き出した。

そんな彼女の姿をみて、僕の眼頭も熱くなってくる。


ジリリリリリリリリ!!

突然、頭をつんざくような音が聞こえ、まるで電灯が消えるように、フッと自分の意識が落ちるのを感じた。

ジリリリリリリリリ!!

手を伸ばして、目覚まし時計を止める。

なんだか身体が重たい。

そういえば、今日は、朝から重要な会議があるんだった。

気候変動により、蚊が異常発生し、社会問題になっているのだ。

いかに、より効率よく、迅速に、蚊を処分することができるか。

早く新製品の開発に着手したいところだ。

ベッドから起き上がり、グーっと伸びをする。

縮こまっていた背中が伸びて、気持ちがいい。

と、胸の辺りに痒みがあるのを感じた。

パジャマをめくってみると、胸の中央に一つ、蚊が血を吸った跡があった。

「ちっ!」と舌打ちをして、さっさと着替え始める。

昨夜、よっぽど仕事で疲れていたのか、蚊よけの薬剤を部屋に散布しておくのも忘れ、そのまま眠ってしまったようだ。

「今に見てろよ。忌々しい蚊め。この地球上から駆逐してやる!」


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今日は何を書こうかな、と考えているとき、蚊が顔の近くに飛んできました。

「蚊」で何か書けないかなと思い、以前から書いてみたいと思っていた「ショートショート」で表現してみよう!と思い立ち、書いてみました。

蚊の立場になってセリフを考えてみたり、オチはどうしようかと考えたり、大変だったけど、面白かったです(^^♪

また、ネタを見つけて、書いてみようと思います。

ありがとうございます✨








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