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彼女と土-2022/7/26
匂いがした。
湿った空気に混じる土の匂い。
雨が降る寸前の匂い。
シャベルが入った赤いバケツを持ち直す。
金属がぶつかってカランと音がした。
お母さんに黙って出てきてしまった。
もう僕がいないことに気付いただろうか。
バケツの底には小さな包みが入っている。
柔らかいティッシュで包まれたそれは、もう息をしていない。
ミィミィ小さく鳴いていた時はあんなに可愛かったのに、
呼吸が止まった途端、それは不気味な塊になってしまった。
だけど僕はこの子が好きだった。
お母さんは許してくれなかったけど、
守ってあげることはできなかったけど、
せめて雨の当たらない場所に埋めてあげたいと思った。
いつも遊んでいる公園の端に大きなポプラの木がある。
僕はその下の土を掘り始めた。
土は湿気を含んで柔らかい。これならそんなに大変じゃなさそうだ。
この子を見せたとき、お母さんはとてもビックリして、
「早く捨てて来て!」と金切り声で叫んだ。
この子がそんなに怖かったのかな、小さくて可愛かったのに。
掘った穴の底に固くなった身体を横たえる。
5つある目はもう開かなかった。