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推しとファンと友達と

友達がアイドルをやっている。
大学の時の友人で、アイドルになるところ、活動を頑張るところを側とは言えないかもしれないが見てきた。
頻繁に遊んでいたわけじゃないけど、私は彼女がずっと好きで、陰ながら応援していた。

自分の人生がうまくたちゆかなくなって、自分のやりたいことというのを見つめ直してみたときに、そのひとつが「彼女の側で応援する」ことだった。
正直に言えば「地下アイドル業界」なるものをこの目で見て経験にしたかったとかそういう気持ちもあるが、人手不足の事務所に私が入って運営しやすくなれば彼女がもっとやりやすくなるだろうと思ったのは確か。

入ってからしばらく楽しかった。何もかも目新しく、社長はいい人で、先輩も優しい。忙しく落ち込むこともあったけれど、友達が「知ってる人が運営にいると安心する」と言ってくれたのを何度も思い出して踏ん張った。
ただ、この業界はどこもそうだと思うが、労働環境が劣悪である。随時対応が求められるから休みと言える休みはないし、少ない人数で多岐にわたる仕事をしなくてはいけないし、経営は火の車で、なんと経理を担当する人がいなかった。私はその経理とその他雑用のようなことをやっていた。現場に出るマネージャーはもっと忙しいだろう。でも私は私のその業務で手一杯で、だんだんその効率も落ちていった。
ある日スタッフの一言に明らかにパワハラと取れる発言があり、腹が立って別の友達に愚痴を言った。そうしたら「あなたがこんなふうに言われ尊厳を傷つけられる環境にいなくちゃいけないのが許せない」と酷く怒ってくれた。
あ、私って尊厳を傷つけられたんだ。
ずっと蓋をして誤魔化していた全ての理不尽がどっと溢れ出た。ギリ木舟と思い込んでたけど全然泥舟だった。耐えきれなくなって辞職。ほぼ鬱病。
その後もいくつかトラブルがあって、友達のいるグループ、好きだったアイドルの曲が聴けなくなった。気まずいからライブに顔を出すこともできなくて、全然応援になることもできていない。
だけど、シェアハウスの住人が、そのアイドルを好きになってくれている。自分のことでも大変なのに、彼女らのライブを楽しみに頑張って、心底楽しんでくれた。私と会社の関係が悪化してもそれを変えないでいてくれた。

その住人と、彼女の生誕ライブに行った。ファン有志が飾りつけた会場、生誕衣装、その他様々に豪華なライブ。
ふたりの大事な友達が楽しそうでよかった。私も楽しい。
まったく別の場所で知り合った友達が、推しとファンという形で繋がっている。面白いし、ありがたいことだ。
私は会社のことがトラウマになっているので、彼女のソロ部分以外いられなかった。パワハラをしてきたスタッフと顔を合わせそうになって逃げるようにライブハウスを出た。それでおわり。十数分のステージ。その裏で丸一日働いているスタッフがいるのを知っている。今日のためにたくさん練習した友達を知っている。

無力な私は友人らが幸せでなるべく悲しい目には遭わないようにと祈ることしかできないが、そう祈る時間は誰にも害されない無垢で心地良い時間。
好きなものを嫌いになっていく人生でこれだけは確かでありますように。

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