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共生

 白いTシャツがずらりと並んでいる。黒いパンツも。全部同じに見える。彼に興味が無いわけじゃないはずだけど、彼を理解するのは難しい。
 大学生の時に告白されて、格好いいけど変わり者で有名だった彼を恋人にした自分に惹かれてすぐに付き合った。女友達から羨まれ、男友達からあいつ変人じゃんと揶揄われて嬉しかった。その時から彼は白いTシャツに黒いパンツがトレードマーク。初めて泊まりに行った時と変わらないクローゼット。部屋だけは少し広くなった。卒業して一年、同棲を始めて半年が経つ。
 彼の変なところは多岐に渡っていて、未だにそのパターンを掴み切れない。
 例えば、告白されたのも初めて泊まりに行ったのも同棲を切り出された日も始めた日も、必ず十三日だった。彼曰く、記念日を覚えるのが面倒だからと。そして素数の中で一番十三が好きだからだと。私は記念日に頓着するほうではないし、付き合い始めた日くらいは覚えていたとしても泊りに行った日、つまり最初にヤった日なんて覚える必要はないと思ってる。それなのに覚えるのが面倒と言われるのは、まるで私が記念日のお祝いを催促したことがあるような言いぶりで不快だった。
 仕事に関しても不思議だった。大学で優秀だった彼は当然のように一流商社に入り、三か月で辞めた。にもかかわらず、私は同棲を始めるまでそのことに気づかなかった。彼が隠していたのかといえば違う。言う必要が無いから言わなかったらしい。その後もいくつかの会社を渡り歩いているが、いつも就職の決め手は「乗換無しで三十分で通え、基本就業時間が十時から十九時であること」だった。その会社が何をしているとか規模がどのくらいかというのはどうでもいいらしい。
 服装だって、今でもわからない。なぜ白いTシャツに黒いパンツに固執しているのか。ブランドがどうとか語るから、こだわりがあってのことなのかと思えば、聞いてみると「選ばなくていいのが楽」とだけ言い捨てる。たまには何か別のものをと私が贈っても、受け取るくせに絶対着ない。
 一緒に寝る日だって彼の中では決まっている。そう宣言されるわけではないが、彼に誘われた日の統計を取ってみると、必ず五日と十日と十五日…つまり五の倍数だった。数に不満が無いといえば嘘になるが、それよりも気味が悪かった。私が気分じゃないとか今日はできないとか言うとすこぶる不機嫌になるし、翌日体調を崩す。それに初めてヤったのは十三日なのだから、微妙に筋が通っていない。
 十九時半に彼が帰ってくるまで、私は大抵首を傾げている。
 白いTシャツに黒いパンツの色移りがあるが、これは彼の中で「白いTシャツ」に含まれるのか。クローゼットの奥に眠る私の贈り物を勝手に売ったら気づくのか。私が仕事をやめたのを黙っていても憤らないのか。十三日に記念日なのだからとせがんだらセックスをしてくれるのか。彼は私の何が好きで、何年も一緒にいるのか。私は彼の何が好きで、何年も一緒にいるのか……。
 頭が眩むような真っ白のLEDライトが灯る。部屋の明かりは全て同じライト。なぜか裸電球を譲らない。暗い部屋で斑に黒いTシャツを抱えて立ちすくんでいた私を彼が見つけて、私みたいに首を傾げた。

「何してるの。変な子」

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