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人形

 月並みなことを言うようだけど、きみは何よりも綺麗なんだよ。
 朝露の煌めきより、午睡の重さより、夕日の熱より、星の微かさより。
 ただそこに在るというだけで僕を認め、許し、時に罰するきみは、何よりも素晴らしいもの。

 きみが生まれてきた世界は素晴らしい。きみが生まれてきたのだから。
初めてきみに会った時に僕を貫いた衝撃は、今も僕の軸となって、僕はその周りをぐるぐる回りながら生きているにすぎないんだ。きみは僕の中心。僕の存在意義。
 白い肌も、冷たい体温も、僕が切り落として付け直した小指も、珈琲で染めた足指の間も、全てが僕を作ってる。きみが作られているもので僕は作られている。わかるかな。僕は説明が下手だから。聡いきみならきっと理解してくれていると思うけれど。
 きみに喜んでほしくて、色々なことをしたね。夢のようなフリルがついたドレスを着せて、柔らかな髪を巻いて、睫毛についた埃を指でそっと払って、きみに一番似合う瞳を探して、そのたびに僕は満たされた。きみは満たされた? 僕のためのきみだからきっと満たされていると願うよ。
 人はいつか死ぬから、きっときみもいつか死ぬけれど。その時を迎えた僕は想像したくないな。僕が先に死にたい。でも、もしもきみが先に死んだら、きっと僕は後を追ったりしないのだと思う。冷たいと思う? これだけ愛を伝えておきながら自分勝手だと思う? きっときみは何も思わないね。
 僕はきみが死んでも好きだよ。だから死んでも死んだきみのことを愛して生きていきたい。だから後を追わない。きみを失ったことに絶望しながら、死んだきみを忘れずに生きていくよ。きみが粉々になったら、ひとつ残らず欠片を集めて、一等すてきな箱に仕舞うよ。気まぐれでパーツを合わせて、きみが戻らないことに涙を零すよ。それは幸せな時間に違いない。

 つまり、きみがどうあっても、僕はきみを愛している。きみは僕を愛している? きっときみは僕に興味もないだろうけど。万が一僕がきみを手放せば、他の誰かがきみを愛し、きみはそれにも何も思わないだろう。
 それでもいいんだ。それがいいんだ。僕はきみが一番好きだから。血の代わりにゴムの通った、簡単にばらばらになってしまうきみのことが。世界一美しく愛おしくてならないんだ。

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