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【あなたも億が稼げるかも!?】石田衣良が話題書『小説家になって億を稼ごう』を紐解く

「小説家 石田衣良が、若い仲間たちと大人の放課後をテーマにお届けする、自由気ままな番組『大人の放課後ラジオ』、通称オトラジ。
毎回映画・マンガ・本、音楽など最新カルチャーから、恋愛&人生相談、ほんのり下ネタまで、日常のひとときをまったりにぎやかにするエイジレスでジェンダーフリーなプログラムをお届けしています。

そんなオトラジで2021年6月3日に放送された『『小説家になって億を稼ごう』あなたも小説で億が稼げるかもしれない!?』特集。

ミリオンセラー・シリーズを多数持つ「年収億超え」作家・松岡 圭祐さんの話題書を石田衣良が徹底解説。「書く人」必見の執筆のヒントも満載の本書の魅力に、オトラジメンバーの早川洋平武井ひろなとともに迫ります。

大盛り上がりだった収録を、ぜひテキストでもお楽しみください!

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石田 今回は編集者との食事会で話題になった『小説家になって億を稼ごう』を解説していきます。小説家志望の人やデビューしたての新人作家はほとんど全員が読んでいるみたい。

早川 なんと言ってもタイトルのインパクトが強いですよね。

ひろな 以前オトラジで放送した「公開企画会議」の回で、衣良さんが紹介していた本でもあります。

石田 そうそう。オトラジのリスナーは「書きたい人」が多いから、気になる人も多いんじゃないかな。

まず、著者の松岡圭介さんは1997年にデビューされた小説家。代表作は『万能鑑定士Q』シリーズで、2014年に松坂桃李くんと綾瀬はるかさんが主演で映画化されていたり、コミカライズが発売されていたりする人気作です。

早川 執筆歴24年のベテランの方なんですね。

ひろな さっそく核心的な質問なのですが……実際に小説家って、稼げるんですか?

早川 やはり気になりますよね。実際に「億超え」されている方はどれくらいいるのでしょうか。

石田 正直、文芸を書いている人ではほとんどいないと思っている。その代わり、ミステリーやアクションをコンスタントに刊行できる人や、メディアミックスされているライトノベル作家は億を超える収入を得ていると思うよ。
それから、あくまでぼくの感覚だけれど、今のベストセラー作家の最高年収は大体5億くらいじゃないかな。

早川 そうなんですね! もっと高い印象でした。

石田 昔はもっと高かったけれど、今は本当に売れている作家でこれくらいじゃないかな。
だから漫画家のほうがはるかに稼げている。
けれど海外に目を向けると、『ハリー・ポッター』シリーズ著者J・K・ローリングの印税収入は1000億超えと言われている。

ひろな さすが! 各国で刊行されているとケタがちがいますね。

そもそも小説家を目指す人って「大金を稼ぎたい!」と思っているというよりかは、まずは「書きたい」という気持ちがあって、後から「稼ぎたい」がついてくるというような気がしているのですが……衣良さんはデビュー当時、どんなお気持ちでしたか?

石田 デビュー前はコピーライターとしての収入があったから、小説で稼ごうという気はあまりなかった。ただ自分が心から好きだと思える仕事がしたいと思ったから書き始めたんだ。広告はたいしておもしろくなかったからね。
実際に書いた小説が賞をとってデビューすることになって、1年目で年収が1000万、2年目で2000万、IWGPがドラマ化された年には7000万。その時は驚いたし「小説家って稼げるんだ」と実感したよ。

ひろな 自分の才能がそのままお金として返ってくる仕事で、それだけの大金を……すごいな〜。

早川 もちろん簡単なことではありませんが、夢がありますね。

<1、キャラクター作り・プロット構成>

石田 今回の特集のためにふたりにも読んでもらったけれど、この本は文学的な精神論が書いてあるのではない。著者が実践している「いかに商品としての本を書くか、作り上げるか」について書かれているんだよね。

早川 すごくリアルに書かれていましたよね。

石田 こういった本はなかなかないから、ぼくとしてはすごく面白かった。
というのも小説家って、同業者でも「誰がどんな書き方をしているか」が見えない職業なんだ。たとえば役者なんかだと同じ稽古場で技術を盗むことができるけれど、執筆は基本的に一人で行うものだから機会がない。

ひろな みんな自己流なんですね。

早川 物語の作り方についても詳細に書かれていましたよね。

石田 「最初に5〜7人程度キャラクターを設定する。ビジュアルは好きな役者やアイドルにして、それぞれ名前をつける。ライトノベルを書く場合は漫画やアニメのキャラクターをそのまま使ってもいい」。

ひろな なんかそう書かれていると、自分にもキャラクターが作れそうな気がするからすごい(笑)。

早川 同じくです。ただ、それと同時にぼくの場合、画一的でありきたりなキャラクターたちになってしまうのではないかとも思いました。

石田 それはチョイス次第じゃない? たとえばその7人のうち2人は南アフリカ共和国の政治家、ネルソン・マンデラと日本のアイドル……みたいなことがあったら面白いと思う(笑)。
「最初にどんなキャラクターを持ってくるか」が重要だから、その引き出しを豊かにしておくことがポイントかもしれないね。

早川 なるほど。

石田 そして松岡さんはキャラクターのビジュアルを決めたら、その写真を壁に貼り付けてずっと頭の中でストーリーを考えるそう。
ストーリーを固め終わるまでは書くのを我慢するんだ。書くのは案外簡単だから、誰しもすぐに文章にしたくなってしまうもの。ただ、大切なのは全部が頭の中で出来上がるまで決して書かないことなんだって。
この考えはすごく共感した。
文章は生きているから、書いて形にすると感情が入って血が通ってしまう。一度書き始めたものをパーツを切ってまたつなげて……なんてできないんだ。人が「腕の位置を間違えたから、根本から切ってつなげなおそう」なんて簡単に思わないのと同じように。
だからこそ、頭の中で何度も繰り返し形を変えて、あとは生み出すだけになるまでは、じっくり我慢して書かないでおく。

早川 欧米作家の書き方と似ていますよね。

石田 まさにそうなんだ。アメリカのミステリー作家は半年かけてストーリーや展開の構想を練り、それを3カ月で執筆するというようなペースで書いている。

ひろな 私の得意なBL話になっちゃいますけど、BLにはオリジナルと二次創作の2種類があって。オリジナルというのは主に一般的に発売されているBLコミックのことを指して、二次創作というのは書き手が既存のアニメや漫画のキャラクターを登場させてストーリー作ることを指すんです。
松岡さんが特定の人物をキャラクターに落とし込んで作品を作っていくと知って、二次創作に近い印象を受けました。

石田 その通りだと思う。ぼくはそれをすごく良いと思っていて。
というのも、今ってミステリーにしろアクションにしろどんなジャンルの事件の展開も、キャラクター同士の掛け合いも、パターンが出尽くしているんだ。その上で「パターンを求める」読者が多い。

ひろな ああ〜、すっごく分かります。「このパターンが読みたい」と思って本を選びますし、2番前じどころか3番、4番煎じでも(笑)、面白いものは面白いですもんね。

石田 そういうのを手を変え品を変えて面白く作れるのは本当にすごいことなんだ。日本の文芸の世界では、軽く見られがちなんだけど。
よくある海外映画のシリーズもので、全部のパターンは一緒なのに、第1作目はすごく面白くて、2作目はそこそこで、最新作はちょっと……なんてのも結構あるから、レベルを維持するのもむずかしいんだよね。。

早川 ありますね(笑)。
でもさすがというか、衣良さんは忙しい中でも映画とかチェックされていますよね。

石田 いや、小説家って周りが思うよりも時間がたっぷりあるから(笑)。これほど自分の興味のあることに目を向けていられる職業は珍しいかもしれないね。
「5本連載を持っている」なんて場合は締切に追われて忙しいだろうけど、今そこまで連載を抱えている作家はいないんじゃないかな。

ひろな 衣良さんは一番忙しい時、どれくらい連載を持っていたんですか。

石田 週刊誌、月刊誌、各月の小説誌の原稿……色々合わせて最高で7本あったなあ。

ひろな うわあ(笑)!

早川 それってぼくが初めて衣良さんに取材した15年位前ですか。

石田 そうそう。

早川 やっぱり。その時にぼくが「お忙しいですか」と聞いたら「普段は原稿があるから取材は月に1日か2日、まとめて受けているんだ。だから今日も10件くらい取材される予定」と仰っていて(笑)。

石田 懐かしいね〜(笑)。

<2、あらすじ>

石田 自分で夢中になれるくらい面白いストーリーが出来上がったら、次にあらすじを書く。松岡さんはストーリーを3幕構成にして40字の原稿用紙の10行目を第1幕、20行を第2幕、残りの10行を第3幕くらいの分量で書いていくそう。このやり方だと2幕にボリュームを持たせているけれど、個人的には実際に執筆する際には1:1:1の割合でも良いと思う。
3幕構成って古典的だと思われがちだけれど、実際によく用いられているだけあって分かりやすいのが良い。誰でもバランスよく作品をつくれるいい形式だと思う。
ぼくも以前出版した『うつくしい子ども』は、意識して3幕構成で書いたのを覚えているよ。

早川 そうなんですね。読み手にとって分かりやすいのは重要なポイントだと思うのですが、逆に3幕構成にするリスクはあるのでしょうか。

石田 構成はあくまで形式なので特にリスクはないよ。俳句を例に考えると「俳句という形式で物事を伝える」ことができればいい。だから形式自体にはいいも悪いもないんだよ。良い俳句かどうかが重要で、小説でもそれと同じ。

ひろな あくまで中身の完成度が重要なんですね。

石田 そうそう。でもこれから小説を書き始めるという人には、3幕ものは頼れる王道の武器になると思う。

早川 3幕ものだと、必然的に長編小説になりますよね。

石田 そう。松岡さんも「長編小説を書いて、大手出版社の編集に読んでもらおう」と提唱している

昔はデビュー前なら「まずは短編を書け」という流れがあったんだ。短編を書くことによって人間を見る目やスケッチの仕方なんかを身につけていく。それを編集者に見てもらい、2作目を書く……何度か繰り返せば短編集になり、デビュー作として売り出すというのが昔の作家のよくあるデビューの仕方だった。ただこれだと1作目からデビューまでに3〜5年はかかる。今はもう出版社に経済的な余裕がないから、こんなふうに時間を割いていられない。

長編なら上手くいけば1作品で1冊の本になるし、さらにメディア展開がやりやすいというメリットもある。読み手も長編を求めているから、これから書き始めるなら長編小説にトライするべき、と書かれていたね。

早川 そういった時代の移り変わりや出版社のリアルな事情が分かる本ですよね。

ひろな なるほどなぁ〜。
それから、私、すっごく気になっているんですけど……。
この本で「小説を書くための詳細な流れ」を知れたので、クオリティはともかく「このやり方でやれば自分にも小説が書けるんじゃないか?」なんて思ったんです。
だからこそ「売れる小説」と「売れない小説」の差ってどこで出るんでしょう?


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